「泣くのは構いませんが、一人で行動されると困ります」

「い、おり君は…厳しい、ね」


蹲る私の横に静かに腰掛けた伊織くんが開口一番はっした言葉はほんとうに呆れきった声をしていた。
彼がここにいるということは他のみんなはどうしているだろう、私が抜け出したことに気付いているのだろうか?
ちょっと心配になったがそんな私の考えなんておみとおしとでも言うように「皆さんはぐっすり寝てますよ」と伊織くんがいった。



「私さ、弱虫だからさ」


「あなたが弱虫だなんてとっくに知ってます」


「あ、うん…伊織くんはやっぱり厳しいね」


ずるずると鼻を啜りながら、一生懸命涙を拭う。
明日目が腫れたらどうしようなんて考えより、今隣にいる伊織くんにこれ以上みっともない姿を見られるのが我慢ならなかった。



「みんな心のどこかで不安を抱えてるんですよ。泣くのは悪いことじゃないけど、一人で抱え込むのは感心しません」


「だって、先輩たちの前で弱いところ見せられないよ」


歳の差という壁は高い。
勇気も優しさももっている先輩にはすごく憧れるけど、甘えてばかりいられない。むしろ甘えづらいといったほうがいいかもしれない。
伊織くんはしばらく黙っていた。もしかして何かまずいことでも言ってしまったのだろうかと心配になったけど、私たちの間に流れる空気はどこか穏やかに感じられた。


「好都合なことに僕とあなたは同い年です。」


擦りすぎて痛む目で隣を見れば月明かりに照らされてぼんやりと伊織くんが照れくさそうに微笑んでいた。
さっきの呆れたような声音はどこにいったんだというように、優しい響きだった。



「僕ならいつだって胸くらいかしてあげますよ」


「…じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」


冗談でいったんだろうな、と思う。でも甘えていいよ、といわれたら今まで我慢してきたものが溢れてきそうで、胸が苦しくなった。
だから吃驚した顔の伊織君の胸に顔を埋めてみた。
伊織くんの匂いが肺にいっぱい入ってきて、伊織くんの体温がじわじわと伝わってくる。



「弱虫といったわりには大胆、ですね」


「伊織くんが胸貸すって言ったんだもん」


「そうですけど…ちょっと吃驚しました」


「今は甘えたい気分なの」



そうですか、と呟いた伊織くんは何を思ったのか、私の背中をぽんぽんと一定のリズムで叩き始めた。私は赤ちゃんか、と言いたくなったけど、これがまた私の眠気を引き出すものだから、瞼がいよいよ本格的に下りてきた。



「伊織ー何してるだぎゃー?」


「ア、アルマジモン!」



その後すぐみんながわらわらと集まってきて、さんざん茶化されたのは言うまでもない。
でもまた伊織くんには胸を貸してもらおう。





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