「ハルト」



振り返る顔はあの日のまま、好転なんてしていない。悪いほうへ向かってる。一層光を宿さなくなった目に射抜かれて体が固まったようになった。でもこれじゃあいけないよね。私が強くならなきゃ駄目なんだもの。ぎしぎしと間接という間接が歩くたびに悲鳴を上げる。痛いわけじゃない、ただ動かないんだ。



「僕は撤回しないよ。僕は君が大好きなんだ。嘘じゃない。君が駄目っていっても僕はずっと君が好き」



ぎこちない動きの私と正反対に音を立てずに、あっというまに私との間をつめたハルトはまっすぐと私を見て、まるで、自分の意見は正論だといいたいようだった。
嘘だなんて思わない、否定だってしない。私も同じ気持ちなんだよって伝えなきゃ。



「私も、ハルトのこと好き、だよ」



少しだけ目が見開かれた。
言葉を捜しあぐねているみたいで、口をあけては閉めを繰り返す姿は昔のハルトみたい。全部が全部変わってしまったわけじゃないんだね。
受け入れられる気がする。私が受け入れてあげなきゃいけないんだ。



「ねぇ、それって本当?嘘じゃない?僕と同じ気持ちなの?苦しいくて悲しい気持ちを君も感じてるって事?」



「ハルトは苦しくて、悲しいの?」



「僕、僕は、君の叫び声が聞きたいんだ。笑い声なんて聞きたくない。でも、でも、僕は君の笑顔が大好きで、でも泣き叫ぶ顔が見たい。僕はおかしくなっちゃったから君が悲しむから、駄目なんだ僕が君を傷つけちゃう。でも僕君が大好き。傍にいて欲しい。僕怖いんだよ」


ぐちゃぐちゃな心のなかを必死に言葉にしようとしてる。
伺うように私の顔をみたハルトは少し弱気な表情をしていた。
私だけが泣きたいわけじゃなかったんだ。
ハルトだって泣きたいんだね。
今度は私からハルトの背中に手を回した。
ぴったりと隙間なく、生憎私に女としての凹凸なんて自慢できるものないから、
ほんとうにぴったりと抱きしめた。



「泣きたかったら、泣いていいからね」


「男が泣いたら格好悪いよ」


「じゃあ私が泣くからいいや」



私が泣いたらハルトはどんな顔するかな。
この前みたいに嬉しそうな顔をするのかもしれない。
でもそんなことどうでもいいや、今はすっごく泣きたい気分なんだ。
ずるずると二人して座り込んで、ハルトの胸に顔を埋めて私だけみっともなく泣いた。ハルトは何にも言わないで私の頭を撫でてくれるけどちょっとだけ震えているのが背中に回した手からつたわってくる。



「君は悲しいの?悲しいから泣くの?」



「嬉しいのと、悲しいのが混ざったかんじ、かな」



「ああ、じゃあ僕と一緒だね」



顔を上げたらぽたぽたと私の頬に水滴が振ってきた。
さっき男が泣いたら格好悪いっていったくせに。
こつん、と額をくっつけて「格好悪い」と言ってやれば、間近にあったハルトの口が私の口にぐっと押し付けられた。緊張のせいで私の口かさかさだし、泣いてるし、初めてとしては、とてもいいシチュエーションなんていえないけど、なんだかすごく嬉しかった。



「ねぇ、どうだった?」



「うん、すごくかっこよかった」




私は、やっぱりハルトが大好きだ。傍に居たいし、話たい。
ハルトが私を必要としてくれるだけでも嬉しいんだ。
ハルトが悲しいなら私が傍にいてあげよう。そうすれば私も寂しくない。



(一緒にいれればそれでいい)





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