今日も今日とてハルトに会うため、道を歩いていれば前に特徴的な髪の毛が見えた。
吃驚させてやろうと、こっそり近づいて「カーイトくん!」と抱きつけば情けない声をだしたカイトくんが呆れたような顔で私を見た。(うわっ、て言ったよあのカイトくんが)



「やっぱりお前か…危ないからこうことはするな」


「そうだねカイトくん吃驚しちゃうもんね」


「別に驚いてない、いきなりで思わず声が出ただけだ」


「人はそれを吃驚したという」



うるさい、とカイトくんの手が私の頭をぐしゃぐしゃとかき回した。せっかく整えたのに台無しになっちゃったよ。
「これからハルトのところ行くのにまったく…」悪態とつくとカイトくんの目が怖くなった。意味が分からないけど、こういう顔をするカイトくんは決まって機嫌が悪いか、怒っているか。細められた目はまっすぐに私を射抜いて、よく分からないけど、すごく怖い。



「ハルトのところに行くのか」


「う、うん。なんか都合悪かった?」



別に悪いことじゃないんだから、怖がることはない。
自分に言い聞かせれば、ふとこの前ハルトの言っていたことが脳裏によぎった。
(兄さんったらね、君と僕がお喋りするの嫌みたい)
カイトくんがふざけて言ったのだと思ってたけど、こんな目で私を見るんだ。おふざけなしで、私とハルトが会うということが気に食わないのかもしれない。



「もうハルトに会わないほうがいい」



小さな声で予想どおりの言葉が聞こえた。
カイトくん、なんでそういうこと言うの?だってハルトの一番の友達はわたしでしょう?なんで駄目なの?
言いたいことは次から次へと頭に浮かぶけど、カイトくんの目をみたら全部喉の奥へ引っ込んでしまう。臆病な言葉たちだ。



「ハルトが、おかしいのと関係あるの」



唯一出てきた言葉は多分、私が一番カイトくんに聞きたいことで、カイトくんが一番私に聞かれたくないこと、だと思う。
ほら、カイトくんの視線が私からはずれた。力強かった目も、私も見ることなく下を向いてしまう。



「ねぇカイトくん、なんで?ハルトどうしちゃったの?」


なんとなく聞いちゃいけないと分かっていても、まくしたてるように舌がすべる。
怖かったカイトくんの目が私からはずれて、押し込まれた言葉がまた氾濫してきたのだ。
ごめんねカイトくん。そんな悲しい顔させちゃって。でもね、何も教えてくれないのはずるいよ。



「私からハルトを取らないで」



勢いでカイトくんの手をがっしりと掴むが、すぐさま振りほどかれた。
ちからまかせの行為に、予想してなかった私の足はみごとに絡まってそのまま地面にしりもちをつく。痛い。カイトくんらしくないね、こういうことするなんて。抗議しようとカイトくんの顔を見上げる。
でもやっぱりカイトくんの目に見つめられたら何もいえない。



「お前に嫌われたら、ハルトはきっと悲しむから」



ごめん、と言い残して足早に去っていったカイトくん。
なんで泣きそうな顔してたんだろう。
私がハルトを嫌いになるって意味が分からないよ。
カイトくん、カイトくん、



「私からハルトを取り上げないでよ」



あぁ、今日はもう家に帰ろうか。









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