汗を光らせ走り回るクラスメイトを見るのが私の日課。いや体育の時間の日課、かな?かぶった帽子を目深に被りなおし、またぐるりと校庭を見渡す。あっちでは女子がハンドボールをしている。なんともまぁ。男子と比べると動きがぬるぬるしていてスピード感にかけるプレイだこと。見ているぶんには男子のほうが面白そうだ。


じめじめした日陰に座る私にはあんなに動き回るなんて無理だけどね。なんだか影を隔ててまったくの別世界に思える。ちょっと、本当にちょっと寂しくなって足元の土を蹴り上げたけど湿った土は舞い上げることなくボロボロと靴の先にこびりついただけだった。あ、そういえば一昨日買ったばかりの靴だ、これ。



「最悪だ」



「何が最悪なの」



「靴が汚れました…ってなんで松野がいるの」




いきなり現れた松野は、ふーんと興味なさげに私の靴を見てから、自然なながれで隣に腰を下ろした。なんか普通に隣に座っているけどなんで松野が居るんだろう。サボり?でも運動神経抜群だし、サボる必要なんてないような気もする…けどやっぱり前言撤回。こいつはサボりそうだ。サボり癖のありそうな顔してる。だってちょっと笑ってるし。



「ねえ、君の考えてること当ててあげよっか」



「え、ああ、いや別に松野がサボりとかそんなこと…」



「墓穴掘った。馬鹿じゃないの?」




にやーっと意地の悪い顔で私の顔を覗きこむ松野の顔を一発殴ってやりたくなったけど、そこは心を広くもって怒りを静めた。私って偉い。




「残念だけどサボりじゃないよ、膝怪我しただけ」




ほら、と膝を見せてきた松野。本当だ、もう血は洗ったみたいだけど皮膚がめくれて痛々しい色をしている。うげぇ、と思わず零した声に松野が笑って「酷いなぁ」と頭をチョップされた。痛い。



「ところでさ、いつも君が見学してるのは何で?」



「日向に出ると溶ける」



「え?なに?よく聞こえなかった」



「……嘘です。すいません。ただの太陽アレルギーです」





なにあれ、笑顔が怖いってどういうこと?私の精一杯のジョークを笑顔でスルーしやがった。松野怖い。可愛いくせに怖い。






それからなんでか体育の時間に松野が私の隣に来るのが当たり前になった。


「腹痛だよ」
「眩暈が酷くてね」
「夜更かしして貧血気味なんだ」
「んー、なんとなく」
「ぶっちゃけ体育つまらない」
「今更理由とか必要なの?」



見学理由を問いただせば、ものすごく嘘っぽい理由を並べられた。それもいつからか理由とも呼べないようなものに変わって松野のそれは間違いなくサボりの部類に入るものになった。最初こそ注意したけど、つまらなかった体育の時間が楽しみになっているのも事実で、正直そこまで全力で注意できてない。



「てかさ、なんで松野はサボるの?こんな日陰にいてもジメジメして気持ち悪いじゃん」



「えー、ここまで来てそれ聞いちゃう?」



もうサボりを否定しないのか。



「理由かぁ、言ってもいいけどさ、それじゃあちょっと面白くないかな」



「なにそれ性格悪い」



「しょうがないな、ヒント教えてあげるよ。そのあとは自分の脳みそでどうにかしてね」




うーんとね、最初はただの興味本位だったんだ。まぁ一人でサボるのってつまらないじゃん?ちょうどいいことに話相手がいたから声かけたんだ。まぁそれからは色々ね、心情の変化も色々あり、先生に咎められたりもしたんだよ?最初のころは誤魔化せたけど、先生も馬鹿じゃなくてさぁ。大変なんだよ?サボるのも。それでもわざわざこんな日陰でサボってるのってある意味すごくない?



「えっと、今のがヒント?」



「あーもうじれったいな、つーまーり要約すると」





君が日陰にいるからサボってるの。










カタクリ 日陰の恋






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