幼少エドガー



家の中で一日中過ごすというのは実に退屈でつまらない。話をする相手といえば使用人と、私に媚を売る貴族の子供たちぐらいだ。毎日同じことを繰り返す。変わるのは出される課題と食事の内容、楽しいことなんてこの生活にあるだろうか?
くるり、とペンを回して窓のそとを見る。変わらない街並み、でもその中は日々移り変っているんだろうな。こんなちっぽけな屋敷の中とは比べ物にならないほど、楽しい、想像だけど、きっと楽しい。


ぼーっとしながら街を眺めていれば、かつんと窓に何かが当たった。吃驚して固まっていれば、またかつん、と音がした。恐る恐る窓を開ければ今度は部屋のなかに小さな石が飛び込んできた。なんてことだ、私の部屋に石を投げ込むなんて。野蛮だ。きっとどこぞの平民の仕業だろう。意を決して窓から顔をだして一言言ってやろうとしたが、予想に反して下にいたのは私と同い年くらいの女の子。

女の子が石を投げるなんて。自分の思いえがく女性像とあまりにかけ離れた行動をするこの少女に私は少なからず軽蔑の感情を持った。



「おい、私を愚弄しているのか」


私の声が聞こえているはずなのに、女の子はにっこりと微笑んで、また石を投げてきた。さすがの私も我慢ならず投げ込まれた石を手に取り、女の子にあたらないように気をつけながら投げ返す。吃驚したような顔をした女の子に、ざまあみろ、と心のなかで悪態をつく。踵を返し机に戻ろうをした私の頭にまた石が飛んできたときは、思わず顔面に投げ返してやろうかと思ってしまったほどだ。



「いい加減にしてくれ、」



それでもにっこりと微笑む女の子。石を見て、とジェスチャーまでしてきた彼女は私のことを格上の人間だと理解しているのか?緩慢な動きでカーペットに転がる石を手にとれば、きらりと糸が付いている。手繰りよせれば糸の先端に紙切れが括られていて、「こんにちは」と書かれていた。…なんと面倒くさいことを。机の上にある紙をちぎりとって、「誰だ」と短く書き、糸にくくりつけ先端を下に垂らした。



嬉しそうにポケットから紙とペンをとりだし返事を書いた彼女。そんなやり取りを繰り返して、彼女のことがいろいろと分かった。まず彼女の家は花屋を営んでいるらしい。その文章とともに、数枚花びらのちぎれた小さな花が括りつけられてきた。こんな弱弱しい花みたことない。


いつのまにか夕方になっていて、私たちのやりとりは彼女の「またね、」という文章で締めくくられた。またね、ということはまた彼女は来るのだろうか。


疲れたはずなのに、なぜだか、彼女の来るのが待ち遠しく思ってしまう。こんなに時間を忘れて夢中になるなんて。ああこれが楽しいってことなのかな。彼女の文字が並ぶ紙切れを綺麗にまとめて机にしまう。今度は私からも花をあげようか、もちろんもっと立派で美しい花。それには早く彼女に来てもらわなければ。






「これでいいかな」


使用人にもってこさせた花を窓際において一人納得し、ちょん、と花をつつく。花屋の娘ならこれくらい分かるだろう。ちょっと気恥ずかしいきもするけど、そんなことより彼女がまた来てくれるかというのが重要なのだ。








ラベンダー あなたを待っています






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