ちかちかと、さも体に有毒であるかのような光をガラス越しに見つめる。
下では恋人や親子がひしめきあっていて、顔なんてみえなくても幸福に顔を綻ばせているのが手に取るようにわかってしまう。幸福ってこういうことを言うのだろうか、いやむしろ光が幸福を演出しているのだろうかとムカムカする胸で考えてみたけど、その光はやっぱり幸福の象徴には毒々しすぎた。
なぁんて年端もいかない餓鬼がちょっと大人ぶってみたり。



「笑顔は嫌いだよ」


だがしかし隣にいる同じく年端もいかない餓鬼は
大人ぶるでもなく格好つけるでもなくこういう否定的な言葉を吐く。
ガラス越しの光が一瞬一瞬彼の顔を鮮やかに照らすけれども
根本的な彼独特の薄暗さを拭い去れず、むしろ交じり合ってますます彼を奇怪な存在に仕立て上げるようだ。



「ハルトってなんか暗い」


「僕はそんなに暗いの?」


「暗いし、なんか変だよ」



まったく抑揚のない声と表情でじっと私を見つめる瞳に思わず口元が引き攣る。
暗いし変だし、なんだか怖いし。



「変?やっぱり僕って変?」


首をかしげながら圧迫するように詰め寄られ眩暈がした。
上がった口角を引き戻すように彼の手が私の頬を捉え、まるで笑うなとでもいうようにぎりぎりと指が食い込む。
やっぱりハルトは変だよ。口にしたくても口が動かない。痛みでいつのまにか瞳に涙がたまってゆらゆらと目の前がおぼろげに揺れた。



「なんでだろうね、きみのそういう顔好き」


涙が零れ落ちてクリアになった視界に映ったハルトの目は細められ、口元は弧を描いていて。



「私はハルトのそういう顔が好き」


手が離れてじわじわと鈍く痛む口を動かして呟いた。
少しの間が空いて、変わらぬ歪な笑顔を貼り付けながら「君って変な人だね」と
静かに息を吐くように言った。



「ハルトも変よ」


「じゃあ僕ら二人とも変なんだ」



ゆっくり私に腕を伸ばすハルトを照らす光はやはり彼を幸福に見せてはくれない。





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