※「自由人に恋」のつづきのようなもの ムーミン谷に花が咲き、柔らかな春の香りが風にふかれて漂ってくる。 ムーミンやフローレンたちもすっかり冬眠から目覚め、今日も日の下を駆け回り遊んでいる。私も一緒になってはしゃいだが、やっぱり頭の片隅に彼のことがちらついて無意識に橋のほうをみてしまい、理由をしっているフローレンに「待ち人はまだ現われないみたいね?」とにこやかに言われる。事実なのだけど気恥ずかしくてぶんぶんと手を振り否定するけど、あからまさな態度に彼女は笑っていつものように私の頭を撫でた。ほんと、おねえさんみたい。 「ああ!スナフキンだ!」 「えぇっ!どこどこ!!」 ムーミンの声に思わず橋のほうを見る。そこにはムーミンの言ったとおり おなじみの特徴的な帽子をかぶったスナフキンが佇んでいた。 「スナフキンっ!」とかけだすムーミンに続いて駆け出そうとしたけど、そういえばムーミンには私とスナフキンの関係は言ってないわけだし、ここで駆け寄ってもいいものか、と下らない羞恥心のせいもあり、ゆっくりと歩いて彼のほうへむかった。 思えばかけよったところで関係がばれるなんてことあるわけないのに。歩いている途中にふと気付いて、そこまで気にしている自分にまた恥ずかしくなる。 「今年は去年よりすこし来るのが早いね!」 「ああ、今年ははやくムーミン谷に来たかったんだ」 「へぇ、それはまた君、どうしてなんだい?」 ふとこちらをみたスナフキンと目が合った。目を逸らすに逸らせず固まっていれば、スナフキンがこちらに近づいてきて、少し冷たい手で私の前髪を横に分けた。 目にかかっていた髪が退けられたこともあり、さっきよりも鮮明なスナフキンの顔に不覚にも顔に熱があつまる。 「ただいま」 ひさびさに聞くここちよい声にこころが和やかになる。 嬉しさをかくすことないだらしない顔で「おかえりなさい」と言おうとした。がその言葉は一瞬にして喉を逆流して代わりに情けない声が出た。スナフキンはといえば私のおでこに、く、く唇を押し付けて…押し付け……て。混乱する頭にちゅ、という音が響いてやっと、ああ、これはおでこにキスされたのかとぼんやり認識した。 「ス、スス、スナフキン!君はいったいなにを!!!」 「ムーミン、せっかくの恋人の再会を邪魔してはいけないわ」 「恋人ぉ??スナフキンが?彼女と?まさかそんな、スナフキンのやつが彼女のことを好きなのは知っていたけど、まさかあいつが告白なんて洒落たまねしたっていうのかい?僕にはとても信じられないな。自由と孤独を愛してるやつだぜ?孤独を愛してるって言うのに恋人をつくるなんてどういうことだい?なぁスナフキン」 「ムーミン、告白は彼女からよ。スナフキンはそれを了承しただけ」 ばれた。フローレンはともかくムーミンにばれるなんて。これじゃあきっと谷中に噂がながれるのも時間の問題かな。ため息をつき原因を作った本人を見やるが、どうやら彼はムーミンの発言にご機嫌斜めなようである。 「ムーミン、僕は孤独を愛してるといったが、彼女のことも愛しているんだ」 「あら、それじゃあ孤独への愛より彼女への愛のほうが勝ったって訳ね」 「ふーん、自分から告白もできなかったのにな」 「あぁ、それは告白の言葉を考えていたら彼女に先をこされて…」 それは初耳だわ。スナフキンを見つめれば、ばつが悪そうに頬をかいてそっぽを向いてしまった。もう少しまって、彼からの愛の言葉を聞くのもよかったかのしれない。なんて考えればくすり、と思わず笑みがこぼれる。まだまだ冬まで時間があるのだから、いつか彼からその言葉を聞いてみたいものだ。 冬が来るまでいっぱいお話しようね、と言えば 彼は「冬までといわず一年中一緒にいればいいじゃないか」と笑った。でもやっぱり冬の間、彼のことをひたすら想うというのもなかなかに幸せなのかもしれないな。 |