「こんにちはスナフキン」


「やぁ、こんにちは」



川で釣りをするスナフキンの隣に静かに腰を下ろす。
ゆらゆらゆれる浮きを眺めながら、なんと話を振ろうか迷う。なにせ私は一世一代の告白をしようとしているのだから緊張していて上手い言葉がなかなか見つからない。
スナフキンもなにも喋らない。


「……もうすぐ冬だね」


「ああ」


「みんな冬眠の準備をしててさ、大変そうだよ」


「そうみたいだね」


「スナフキンも旅に出るんでしょ?」


「もちろん」



そっか、と呟いた私の言葉で会話は終了した。
浮きはいまだに魚の気配を伝えてはこないようである。
静まり返った空間に冷たい風の音だけが聞こえた。
頑張らなきゃ、フローレンが応援してくれてるんだもの、頑張らなきゃ…!
逃げないで行動を起こすのよ私!
勇気を振り絞り、少しだけ腰を浮かせてスナフキンの近くに寄った。私的にはものすごい勇気を要した行動だけどスナフキンは横目で私を見ただけで、声をかけてくることもなくまた静寂がもどった。もう少しなんか反応してくれてもいいかなぁ…なんて思ったけど、スナフキンにとっては些細なことだったんだろうし、落胆もできない。



「今日は…ハーモニカ吹かないんだね」



「今は釣りをしているからね」



「わ、私スナフキンのハーモニカ好きなんだけどな」



言った!言ってやった!いや、確かにハーモニカのことだけどスナフキンに好きって単語を言えただけでも大きな進歩よ!!



「じゃあ吹いてみるかい?」



「え?」



はい、と手渡されたハーモニカとスナフキンを交互にみる。吹く…ってこれを?首を傾げれば「吹いてみてよ」ともう一度言われた。
かぁ、と頬に熱が集まるのを感じたけどスナフキンはそ、その、間接キス…なんてこと考えてもないだろうし、逆に私が意識しすぎなわけだし、それじゃあ私すごく勘違い女みたいになっちゃうし。
スナフキンはこっちを見ている。ここで吹かなくちゃせっかくこれを渡してくれたスナフキンに悪いし。
これはチャンスと思って吹くしかないわ。



「はは、随分弱弱しい音だね」



ひんやりとした鉄を咥えて吐いた息は震える唇のせいでスナフキンのいうとおりへにゃへにゃとした音だけが出た。口のなかに広がる鉄の味にまざって微かに嗅ぎタバコの匂いもするものだから気にしないようにとしても頬の熱は収まるどころか酷くなっていく。



「もう少したくさん息を吸い込んで吹くといいよ」


アドバイスをしてくれるスナフキンだけど、私は今それを真面目に聞ける状態じゃあないんだよ。やけくそに思い切り息を吐き出せば張り裂けんばかりの汚らしい音が響いてスナフキンがまた可笑しそうに笑った。



「君はもう少し練習が必要だね」


自然な手つきで私の手からハーモニカを取ってこれまた自然が動きでそれを口元へもっていく。
綺麗な音が聞こえたときには私の顔はもう自分でも分かるくらいに熱くて熱くて告白しようなんて考えどこかにふっとんでいて、それでも好きという気持ちはふっとんでなくて、



気付いたときにはハーモニカの音に負けないくらいの声で「好きっ!」と主語もない単語だけをスナフキンに言っていた。吃驚したような顔をしたスナフキンと、おそらく赤面してるであろう私。

ちゃぷん、と浮きの沈む音がしたけどスナフキンは私のほうをずっと見ていた。



どうしよう





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