恋人とは一体なにをすればいいんだろう。
いつものように碁を打ちながらふと思った。
やはり最終的には結婚ということに辿り着くんだろうけど、その前はなにをすればいいんだろう。
やっぱり映画をみたり手を繋いだりキスしたり体を重ねたり、そういうことをするのが恋人というものだろうか。いやそうなんだろう。
一度もそういうことを経験しないで結婚なんてなかなかないだろうしな。


ぱちん、と音がしてあわてて碁盤を見る。よかったまだ少し僕のほうが優位だ。
ちら、と彼女のほうを盗み見ればいつものように真剣な顔で碁盤を睨みつけている。


デートといえばお互いの家か碁会所にいって碁を打つくらいだし。逆に言えば碁を打つことがデートみたいなものだったし。
やっぱりどうにかしないとなぁ、とため息をつけば「アキラ?」と訝しげに声をかけられた。




「こんなところで悩むなんて珍しいね」



「あ、いや別に悩んでたわけじゃないよ」


「でもため息ついてた。もしかして私じゃ相手にならない?」


「そんなことないよ、君は僕のいい対局相手だし」



嘘はついてない。でも彼女はまだ不満そうな顔をして僕を見ている。
本当だよ?と何度言っても納得してくれない。
ああ、ここでそんな不機嫌そうな顔も可愛いよとか、言ってあげられればいいんだけど
キスもできない僕がそんなこといえる訳がない。
一向に不満そうな顔をひっこめないから、しょうがなく訳を話すことにした。
男らしくないとかそういう問題以前に彼女の視線に耐え切れなかったんだけどね。



「…僕らって恋人らしいことしてないな、と思って」


「え…まぁそういわれてみればそうだけど」


「やっぱり君も不満かなと思ったら心配で」



ぽかん、と呆気にとられた彼女。
ちょっと機嫌直してくれたかも。と期待したけど
またまた膨れっ面になり、顔を赤くさせながらもごもごと何かを呟いた。


「なに?」


「だから!そ、そう思うなら行動してくれてもいいじゃない」


「え、行動って……でも君が嫌だったらどうしようって考えたら」


「嫌じゃない、むしろ何もしてくれないほうが嫌…かも」



変な沈黙。
尋常じゃないくらいの早鐘をうつ心臓が痛くてしかたないけど、
またとないチャンスだというのは僕にだって分かってる。
ここで何もしなかったらこの先いつこういう機会が廻ってくるとも分からないのだから。
思い切って立ち上がった瞬間にがたん、と音がした。吃驚したような期待するような目で僕をみる彼女の頬に震える手を添えて、静かに息を吐く。
頑張れ僕。唇を合わせるだけでいいんだ。一瞬だっていいんだ。
緩慢な動きで彼女を引き寄せてそのまま軽く唇をくっつける。



(うわぁ柔らかい。いい匂いする。)


脳みそが融解したみたいに思考が停滞する。
唇を離してもまだ余韻が残ってて、無意識に二回三回と唇をかさねていた。
顔を離したら彼女と目があって恥ずかしそうに微笑む彼女に僕も緩む頬を隠しきれずに微笑み返した。




「いやぁアキラくんも見せ付けてくれるねぇ」


「若いってのはいいもんだな」


いつの間にか見られてたみたいだ。
茶化すような声が周りから聞こえて、ちょっと彼女に申し訳ない気持ちになる。
でも今日の僕はよく頑張ったさ。少し場を考えたほうがよかったような気もするけど。


「……………アキラ」


「えと、その…今度は僕の家でしようか」



「なにを?」「言わせないでよ」今だ熱の引かない顔で彼女の手を取り碁会所から足早に退散した。対局は決着がつかないままだったけど、まぁそれは今度僕の家で続きでもしようじゃないか。








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