壁にかけられた時計をみると長い針がいつもの時間の二つ前をさしていた。時間まであと10分か。この前貰ったテディベアをぎゅぅと抱きしめごろんとソファに転がった。あと少しだ、あと少しで会える。今すぐにでも叫びたくなるくらいの歓喜を飲み込んでテディベアに顔を埋めれば、かすかに彼の匂いがした。いい匂い。首に齧り付いたけどさすがに彼の味はしなくて、口の中に繊維が張り付いて逆に不快だった。匂いだけで我慢しようと諦め何回深呼吸を繰り返しただろうか、いつの間にか時間になっていたらしくドアを開く音とともに嬉しそうに私を呼ぶ声が聞こえた。



「ダミアン!」



よろけながらも思い切り抱きつけばいつものように私よりもずっと強い力で抱き返してくれる。まずは何を話そうか、うーん今日も特別変わったことはなかったな。しいて言えば一昨日貰った花の花びらが一枚散ってしまったことくらい。でもこんなこと話してもダミアンはちっとも面白くないだろうからなぁ…。
必死に会話のネタを探す私に、にっこりと笑ったダミアンが紙袋を差しだす。


「今日はね、新しい服を持ってきたよ」



「服?またフリルがいっぱいのやつなの?」



「大丈夫だよ、君の好みじゃないってことは前回で学んだからね」



私のこと考えてくれてるんだ。想ってくれてるんだ。きっと私今だらしない顔してるんだろうなぁ恥ずかしいなぁ。でも嬉しいんだから仕方ないよね。ダミアンも私が喜んでくれると嬉しいって言ってたもの。今日は子連れの猫を見かけたよ、と他愛もない話をしてくれるダミアンの声に耳を傾けて必要とあらば相槌をうつ。私の時間でこれほど色のある時間は他にないと思う。多分、絶対。
抱きしめてと言えば抱きしめてくれるし、キスしてといえばやさしいキスが降ってくる。欲しいものは全部ダミアンが与えてくれる。その代償なんて本当のちっぽけなことだ。だって今日の天気なんてどうでもいいことでしょう?




またね、と部屋をあとにする彼に大好き、と言えばいつもの笑顔と一緒に「僕も大好きだよ」と返ってきた。明日は今日貰った服を着て出迎えよう。






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -