にこぉ、と満面の笑みを湛えたマークが誇らしげに鉄の塊に手を置く。それはぴかぴかと光を反射しなんの傷もないことを主張するように凛々しくそこに存在していた。まぁ要するにマークがバイクを買った。新品な皮の匂いが鼻をついて若干めまいがしたけど、そんな匂いもまたマークにとっては喜びの材料でしかないようで、うっとりとしながらバイクを見つめている。なんで呼び出されたのかなんて聞かずとも分かるというものだ。差し出されたヘルメットを受け取りため息をつく。


「さっそく出掛けよう!」


「ちゃんと免許持ってるの?…事故ったら真面目に慰謝料請求するからね」


「大丈夫!ちゃんと免許はとってあるさ、人を乗せるのは初めてだけど、」


「最後のは聞かなかったことにしとくね。」



スポーツ万能なマークのことだから万が一っていうのはないだろう、とたかを括っていた。それがまずかったらしい。
それから最初のほうはまさに安全運転だったのだ。私も安心できるくらいの速度で走ってくれていた。しかしそこから少しずつ加速し、気付いたときには耳元でものすごい風の音がするレベルまで速くなっていた。そういえば、マークはなんでも飲み込みが早いんだったな、なんて後悔している間にもスピードはぐんぐんあがる。


「ひゃっほぉおおおぅう」



それにしてもなんなんだこのテンションは。このまま危ない芸でもしちゃいそうな勢いで一気にスピードを上げるマークに私は命の危険を感じた。これは少しでも体勢が崩れれば死ぬぞ。がっちりとマークを抱きしめる腕に力と込め極力無駄な動きをしないように心がける。でも怖いものは怖いのだ。コーナーを曲がるたびに死の覚悟をするなんてとんだ拷問だね!マークはもはやディラン状態で最高にハイなテンションになってしまい終始歓喜の声を上げている。



「マーク!!止まって止まって!!!止まってください!!!」



「何でだい?最高に気持ちいいじゃないか!!!!」




くそぅこれが自転車なら足で地面がりがりして無理やり止めてやれるのに。今やったら確実に足が持ってかれてスプラッタハイウェイになってしまう。
もう駄目だ。死んだらそれが私の天寿だったということで納得しよう。こんなイケメンと少しの間でも付き合えたんだ、いいじゃないか。まぁその彼のせいで死んじゃうかも知れないんだけどもね。ああもうこのギリギリの状態がいつまで続くんだ。



結局それから20分ほど耐えに耐え抜き、無事帰還することができた。爽やかに笑うマークに「また行こう!」と言われたが丁重におことわりした。せめて車を買うまでマークとのドライブは遠慮したいものだ。





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