「ユーリ、この花綺麗でしょ」


タカオくん家の庭先に咲いていた花を一本もらってきて居間でBBAのみんなと談笑していたユーリに見せてあげれば、しばらく無言で眺めたあと「綺麗だな」と笑ってくれた。横から顔を覗かせてきたボリスはそうでもない、とか無神経なことを言っていたけど、私はユーリに見せたかったのだからボリスがなんと言おうが気にしない。なにも言い返さない私がつまらないのかそっぽを向いてしまったボリスに少しだけ申し訳なかったけどレイくんが苦笑しながらボリスに話しかけるのをみてレイくんに感謝した。レイくんはなんだかんだで大人な対応をしてくれる良識人なのでいろいろ助けてもらってばかりだな。あ、そうだ、はやくユーリに本題を話さなくちゃ。



「これね、日本では百合っていうんだって、なんかユーリと似てるよね」


「あー!それ俺も思ったことあるぜ!間を伸ばすのとアクセントの位置が違うだけだもんな」


「それに色だって白いし!ユーリも肌まっしろだよ」



だよなぁ、としみじみと頷くタカオくんに私も相槌を返す。いやはやタカオくんと同じ意見を持っていたとは…。そしてはっと思い出したかのように顔をあげたタカオくんが面白いことを思いついた悪餓鬼のような表情でユーリのほうをにやにやと見つめた。タカオくんがこんな顔するときって大抵ろくなこと言わないよなぁ、と居心地悪そうなユーリを眺めながら他人事のように思う。



「百合ってさぁ女の人っていうか、美人を形容することがあるんだぜ?立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花ってさ」



「木ノ宮、それは侮辱ととっていいのだな」



「えー、ユーリ綺麗だからあながち間違ってないと思うよ?」



「お前まで木ノ宮の肩をもつのか…」



「でもさ、本当にユーリこの花みたいに美人さんだもの」



私の手から百合を受け取りくるくるとそれを回しながら不満そうに口を尖らせるユーリ。ちょっとまえだったら即座に握り潰していたと思う。本当に性格がまるくなったものだ。なんだか子供の成長を見守る母親気分でしみじみとユーリを見つめる。しばらく考える素振りを見せたユーリがずい、と私の目の前に百合を差し出し「お前にやる」とぶっきらぼうに言ってきたときはさすがに面食らった。いらない、というわけではなくあくまで善意としての言葉らしい。顔をみれば分かる。大方こうやって誰かに物を贈るのに慣れてないのだろう。気まずそうに視線を逸らす表情はある意味レアだ。



「えと、これはどういうことでしょうか」



「男の俺がもっているよりお前がもっているほうがいいだろう」



「おっとぉユーリくん、それはこいつが美人と暗にいっているのですかな?」



「タカオ、ユーリが私のこと美人なんて思うはずないでしょ。この前私がうとうとしてたら間抜け顔って言ってきた人だし」




ねぇ?同意を求めたのに返答がない。あれ、ユーリなんで顔真っ赤なの。それに若干百合を持つ手が震えている気がするんだけど…。な、なんか何も言ってくれないと逆に恥ずかしいじゃない。



「なになに?俺の言ったこと図星だったわけ?あっれーさっきまで白かった肌が赤くなってるぞーなんでだろーなー」



完全にいじりモードに突入したタカオくんがここぞとばかりにユーリに絡んでいく。気付いたら他のみんなもにこにこしながらこっちを見ているし…。完全に見世物状態だよまったく。




ああまったく、なんてことない風景が心の底から幸福だと思えるなんて。





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