ユーリ、セルゲイ、イワンが吃驚したようなそれでいて面倒くさそうな顔でボリスを見ている。ボリスはといえば床に座り込み頬を押さえ愕然とした様子で私を見上げている。嫌な空気が流れた。ボリスの視線に耐え切れず傍観している三人のほうを見ればいつの間にか視線は私に集まっており、なおさら気まずい状況になる始末。なんと弁明すればいいのやら、誰も言葉を発しないこの空間がとても痛い。主に視線をうける体中が痛い。



「あ、あああああのね!わざとじゃないんだよ!!反射というか防衛反応というか…その……ごめんなさい」



「お前が謝ることじゃない。この馬鹿の自業自得というものだ」




私の必死の謝罪にユーリが慰めの言葉を添えてくれた。セルゲイも何も言わず私の頭を撫でてくれるし。イワンはボリスの肩に手を置き小声でなにか言っていた。…あの子、今ざまぁみろって言ってた。私聞こえちゃったよ、どうしよう。あ、でもこっちみてニッコリしてくれた、可愛いな。そしてボリスはまだ動かない。



「で、背後から抱きつこうとしたあげくカウンターを食らった気分はどうだ」



びく、と面白いくらい跳ねたボリスの肩。ユーリの言葉がものすごく蔑んだ声音だったのもあるけど、それにしても過剰に跳ねた気がする。依然として視線は動かないし、正直怖いくらいだ。そんなに痛かったのかな?確かに私のほうも吃驚して加減できなかったような気がするけど…まさか骨折れたとか?嫌な考えが頭に浮かぶ。




「わ、わからない」



「分からない、だと」



「いや、だから分からないんだよ!痛かったさ、そりゃ痛かったんだが…なんていうかこう、よく分からない感情が胸に湧いてくるっていうかさぁ…」



身振り手振りで熱く力説するボリスだけど、私にはよく分からない。



「ねぇユーリ、ボリスは一体なにを言いたいの」



「なんとなく分かるような気もするが、分かりたくもない」



「つまりボリスはお前に殴られて心にぐっと来るものがあったんだ」



「セルゲイそれだぁあああ!!!」



いきなり大声を出してセルゲイを指差すボリスにさすがのイワンも一歩退いていた。そりゃ退くよねあんな迫力だもの。



「そうだ、俺は殴られてぐっときた。一体なんでそうなったんだ!そうとう痛かったのにだ!!これまでだって特訓で顔を殴打することなんてあったが、こんなぐっときたことはないぜ?」



「こ、怖いよボリス」



「分かった。ボリス、そこに手をついてしゃがめ」



よく分からない発言に首を傾げる。ボリスとイワンも不思議そうな顔でユーリを見つめている。動こうとしないのが気に障ったのかユーリが忌々しげに舌打ちをした。舌打ちひとつで背筋が凍るとは。
有無を言わせない迫力に、ボリスもしぶしぶ言われたとおり膝と手を床につける。なんか惨めな格好…これは日本でいう土下座のようなもの、なのかな。セルゲイはなにか知っているのかにこやかに微笑んでいるしなんだかこの流れに全然ついていけないよ…。



「踏め」


「…え?」



「この手を踏めといっているんだ」



え?え?だってユーリが指差すさきにはボリスの手が…え?踏むんですか私が?そんなことしたら絶対痛いよ。駄目だよボリスに悪いよ。



「さっさと踏めといっているんだ」



突き飛ばされた。ついでによろけた。ついでに…踏んだ。足から踏んだ手の感触が伝わってきて、踏まれたわけじゃないのに痛い、と感じてしまう。実際踏まれているボリスは生で痛みを味わっているんだけど。





「気分はどうだ」


「痛い、けど…けど」


「ほらはっきり言えばいいだろう」



嫌に楽しそうな声でユーリがボリスを見下ろす。私はいったいどうすれば…。縋るようにセルゲイを見つめていると、視線に気付いたセルゲイが困ったように笑いながら「罵ってやればいいんじゃないか?」なんて顔とのギャップ甚だしい言葉を口にした。あのセルゲイが…汚い言葉とは無縁のような神レベルに心の綺麗なセルゲイが、罵るなんて言葉を口にするなんて…。しかしセルゲイが今まで間違ったことを言ったことなんて(私の覚えているかぎり)ないのだから、今回も彼にしたがったほうがいいのだろう。罵らなければ。全力でボリスを貶さなければ。




「ボ、ボリスき、ききき気色悪いです」



当然反論してくるものとばかり思っていたが、ボリスはこれでもかというくらい目を見開いて口をわなわなと振るわせるだけ。それだけならまだしもその震える口でとんでもないことを言ってきた。



「悪いけど、もう一回…言ってくれないか」


「え?え?もう一回ってどういう…」



「いいから!もう一回」



「だから…気色悪いですっ!不潔ですっ!」



「もっと、もっとだ!」



なんだろうすごく泣きたい気分。なんでよりにもよって好きな人を罵らなきゃいけないのだろう。




「…目覚めたな」



「いや、俺もてっきりボリスはサディストの気があると思っていたが…世の中どう転ぶかわからんな」



「…変態になっただけだろ」




後ろで三人がよく分からない話をしているのが聞こえた。それよりなんでみんなそんな哀れむような目で私を見るんですか!!お疲れさんってどういう意味ですっ!!そんなあからさまに目を背けないでくださいよ!!頑張れってなにを頑張れというんですかぁああ!!!














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