「クロウは苦労性、なんちて」


「お前意味わかんねぇ」



ソファにごろんと寝転がったまま意味不明のことを口走った彼女は俺の返答が御気に召したのかなんなのか、上機嫌に鼻歌を歌っている。どちらかというと貶したような気がしたんだけど嬉しかった…のか?よく分からん。
呆れた俺がまたデッキに向き直ったところで、ぴたりと後ろから聞こえていた鼻歌がとまった。いちいち振り返るのも面倒くさいので声だけ向ける。



「おーい、どうしたー」


「クロウは満足してる?」


「なんだその鬼柳みたいな発言」



「私よく分かんない」




後ろから震える声で言われて内心うわぁ…と思ってしまった。なんでさっきまで上機嫌だったくせにいきなり泣き出すんだよ馬鹿。体ごと振り返り彼女を見やる。カードが一枚落ちたけど、まぁ今はそのままで我慢していただきたい。問題は彼女なのだ。クッションに顔を埋めて唸っている彼女の頭を控えめに撫でる。



「お前はいつ不満足先生になったんだ」


「不満足じゃないの。アキちゃんも龍亞も龍可もブルーノも大好きなんだけどね、違うの。遊星やジャックやクロウが違うの。みんな私の知らないものを見てる、私を置いてく」



「あー…つまり?」


「昔が懐かしい」



「昔って、サティスファクションのころか」



こくんと首が縦に動いた。そんなこと言ったってもうどうしようもねーし。鬼柳だって自分の居場所見つけて生活してる。いつまでも引きずるな、と言ったけど彼女は無反応のまま首さえ動かさない。面倒くさくなってきた。そもそも俺たちが変わったというけど、それは馬鹿をしなくなっただけで・・・まぁ今でも少し馬鹿なことはするけど…じゃなくて、大人になったということだ。



「あと、お前のこと置いてったりしねぇから。」


「…証拠は」



「証拠っつってもな…あれだ、…その、つまりだなぁ」



「頑張れクロウ」



「お前のせいで困ってんだろ!」




なんだよ、案外元気なんじゃね?だったらこんな恥ずかしいこと言わないでいいか?頭で考えていれば実に緩慢な動きで腕が伸びてきた。そのままゆるゆると俺の腰あたりに絡みつく腕を呆然と見ていたがだんだんと力のこもる腕にさすがに慌てた。



「ちゃんと言葉にして言いなさい」



「分かった、分かったから離れろって」




しぶしぶと腕が解かれ少し瞼の腫れた顔が俺を見据えた。これはもう言わざるを得ない。今思えばこいつは俺に言わせたいだけなんじゃないかとも思う。可愛いととるか、はたまた面倒くさいやつととるか。そういうことをさらっといえない俺にとっては苦行でしかないんだけどな。




「はぁ…俺はお前が居れば満足だ!これで文句ねぇな、異論は認めない」



「うん、クロウは優しいね。」



よしよし、となぜか頭を撫でられせっかく離れた腕が今度は首に巻きついてきて、すりすりと頬擦りされる。本当によく分からない。分かることといえば、こいつの相手をしてやれるのは世界中探したって俺くらいなんだろうなということだ。





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