「おいしい?」 「うん、おいしいよ。カノンも食べる?」 「いいよ、さんざんクリーム味見したから」 母さんに色々と教わっておいてよかった。どうやらまずいわけではなさそうだ。別に今日が誕生日とか、クリスマスとか特別なことがあるわけじゃないけど、なんとなくお菓子でも作って彼女に振舞いたい気分だった。 案の定彼女は急な誘いなのに断ることもせずに来てくれた。われながらなんといい彼女をもったことだろう。結婚するなら彼女みたいな健気な子がいいな。あ、やっぱり彼女みたいな、じゃなくて彼女がいいや。 緩む口元を腕で隠しながら彼女を見ればまだ半分も食べ終わってなくて吃驚した。 「食べるの遅いね」 「そ、そうかな?女の子はみんなこれくらいだよ!」 どことなく慌てる彼女が少しだけ舌を出して口の端を舐めた。こんな癖あったけ?ちょっとだけ気になったけど言うほどのことじゃないから黙っておいた。黙っておいたけどやっぱり気になる。なんだか妙に小さく切り分けるし、何回も口の周りを気にしてる素振りみせるし。 「な、なに?」 「いや、なんか気になって」 「なにが」 それ、と口を指した瞬間ばっと彼女が口元を手で隠して顔を真っ赤にさせた。は?と彼女の行動に首を傾げたら「ついてた?」とよくわからないことを聞いてきた。 「ついてた、ってなにが?」 「え、だって付いてたんでしょクリーム」 「いや、クリームはついてなかったけど」 あ、もしかしてさっきから口にクリームつかないか気にしてたのかな。 「ふーん、そういうことかぁ」 「な、なんでそんなニヤニヤするの!」 「別に口についたクリームをキスで取ってあげるくらいしてあげるのにって思ってさ」 ふざけて言ったつもりなのに、どうも真に受けたらしい彼女は硬直してしまった。 あぁどこまでも純情なんだなぁ、可愛いなぁ、食べちゃいたいなぁ。 邪な考えが頭を一瞬掠めていった。あぶないあぶない。 でもまぁ、俺達だってもう付き合ってそれなりだし、そろそろ次のステップに行ってもいいんじゃないかな。なんて思ってみたり。あーでもそうしたらケーキで釣ったみたいになっちゃう。 それはやだから今日はやめとこう。 「ごめんごめん、冗談だからケーキ食べなよ」 「う、うん」 今日は彼女がケーキを食べるのを見ているだけにしよう。 にっこり笑いかければぎこちない笑みを向けられた。そんな笑顔も可愛いよ。 |