「なんかよくわからないよね」

「なにが」

「ほら、ときどきふとよく分からなくならない?」


わりかし真面目が眼差しで俺をみつめる彼女。そもそも何がよく分からないのだか分からない。彼女も自分の発言が意味不明なのを分かっているのか、それをどう形容しようものか試行錯誤している。
どうも考えがまとまるまで時間がかかるみたいだから視線を彼女から誰もいないグラウンドに移した。練習中は流れるように時間が過ぎたのに、今はなんというかねっとり…いやこの表現は適切じゃないな。現実から切り離されている、ような変な感じだ。
もう一度隣の彼女を見やる。何気なくだ。横顔をじっと見つめたらこちらを向いた彼女と目があった。

ぞわぞわと背筋になにか這いずるような感じがして、胸とも腹ともよく理解できないが、とにかくそこらへんが締め付けられるようだった。



あ、これが彼女の言っているよく分からないこと、なのかもしれないな。



「分かったよ」

「へ?なにが」

「君のいったよく分からないこと」



本当、と少々疑い気味に詰め寄る彼女にもちろん、と言って少しだけ彼女のほうへ近寄った。彼女はまったく俺が近寄ったことに反応しなかっけど、俺は少しだけ喉のあたりが痺れるようだ。




「なんていうか、それって幸せみたいなものじゃないかな」

「幸せかーそうなのかな?」

「あ、恋っていうのもありかもね」



笑った俺につられて彼女もふんわりと笑った。ほら俺、なんかよく分かんない感情でいっぱいだよ。



「なんか嬉しいね」



よく分からないけど嫌じゃないよ。








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