目の前にあるステーキと向かい側に座る彼女の前にあるものを交互に見る。おかしい。今の状況を詳しく説明するとすれば、デート中というやつだ。さらに詳しく説明すれば、店で料理を注文したところ。もちろん俺はステーキを注文した。


「で、お前のそれはなんだ」



「パン?」



でかでかと俺の前におかれたステーキと対照的にちょこん、と申し訳程度に置かれたパン。付属でついてくるような小さなパンとコーヒーだけが彼女のまえに置かれていた。なんとなく彼女が小柄な理由が分かったきがする…。




「お前それで足りるのかよ」


「んー、腹八分目はいくかな」


「飯は満腹になるまで食うもんだ、肉を食え肉を。」


「だって、そんなおっきい肉食べきれないし」




ちまちまとパンをちぎっては食べ、ちぎっては食べを繰り返す彼女は、「残したりしたら迷惑でしょ?」と申し訳なさそうに笑った。金払ってるのだから、残そうがどうしようが自分の勝手だろうと思ったが、彼女はそう割り切れないらしい。つくづくお人好しな奴。まったく、いつ栄養失調になるか分かったもんじゃない。



「ほらよ、」



適当に切った肉を彼女の空いた皿へ置いてやれば、でろりと流れ出した肉汁が皿に広がっていく。できれば全部食べたかったが、このひ弱な彼女に少しでも体力のつくものを食べさせなければ。これは一種の母性本能?母性とか…うげぇ、気持ち悪い。せめて保護欲とでも言っておこう。



「ほら、はやく食えって」



「う、うん」




ぱくり、と一口で食べた彼女は一瞬顔を歪ませ必死にそれを飲み込んだ。「う、脂っこい」生意気なやつめ。しかも、口に油ついてやがる。子供っぽいというか、馬鹿っぽいというか。こいつちゃんと生活できてんのか?




「よし、お前これから俺と食事するときは肉食え」



「うぇ、胃が弱いんだよ私」



「なにもステーキ全部食えとは言わねぇよ、俺のを少し分けてやる」




しぶしぶといった様子で承諾した彼女は、グラスの水を飲み干した。これで彼女の偏食を少しだけ改善できた、ような気がする。これでもし、野菜まで食わないっていうんなら俺はもうお手上げだがな。




「ねぇテレス」



「あ?」



「なんかさ、一つの料理を分け合うって恋人みたいだよね」




「……はぁ、」






にへら、笑顔でいう彼女が、もしかして俺が恋人だということを忘れてるのではと不安になった。
(とりあえず彼女に肉を食わせよう)







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