「どうかな」


どきどきどきどき、心臓の音がダイレクトに聞こえるくらい、緊張した空気が張り詰める。伸ばした手を一瞬とめてフィリップを見やれば、サッカーをしているときみたいな…いや、それ以上の形相でこちらを見つめている。別に私が緊張することじゃないよ、と思ってはみるものの、やはりこの空気のせいで手が震える。



「なぁ、早くしてくれないか」



フィリップの掠れた声で我にかえり急いで手を伸ばし、それを口に運んだ。数回の租借。よく噛んで、よく噛んで、飲み込む。まってましたと言わんばかりにテーブル越しに身を乗り出すフィリップに笑みを送れば、パァと花が咲くみたいな笑顔を零した。なんか子供みたい。やった、と嬉しがるフィリップの口にも運んでやれば、恥ずかしそうにしながらもぱくり、と食べた。




「やっぱり、フィリップの料理はおいしいよ」


「でも、もっとおいしい料理を作らなければ認めてもらえない」


「そうかな?私は充分認めてるけど」



ぱくり、ぱくりとフィリップの料理を口に放りこめば「行儀が悪い」と窘められた。こんなに嬉しそうな顔で叱られてもあんまり怖くないよ。でも料理はおいしい。




「うん、これなら基準クリアだね」


「基準?なんのだ」


「私のお婿さんになれる基準」


「はぁ!?」


「あ、ごめん。嫌だった?」


「い、いいい、嫌というわけじゃ…ない」








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