ゆっくりと眠る彼女の頬に手を滑らし、軽く口付けを落とす。「さようなら」小さく呟いた声は静かな空間に悲しく響いてどうしようもなく心が寂しい。 「ねえ、どこ行くの」 彼女に背を向けた瞬間捕まれた手首。じんわりと広がるぬくもりは間違いなく彼女のもので空っぽの私の心を満たしてくれた。そのまま手を引かれなすがままにベットに腰掛ける。 「ねえフォクスどこいくの」 「遠いところ、とでも言っておきます」 「だめ。行っちゃだめ」 力任せに肩を押され体がベットに沈み込み彼女が押さえつけるように私の体に跨ってきた。私を殺さんばかりの勢いで顔を近づける彼女の瞳からはぼたぼたと惜しみなく涙が零れ私の顔に降ってくる。 「フォクスいつ帰ってくるか分からないもの」 「帰ってきますよ」 「…フォクスは何も分かってない」 親指で涙を拭ってやり彼女の頭を抱きよせる。 「腕なくなっちゃうかもよ?足もげちゃうかもかもしれないんだよ?」 「私はそんな馬鹿な失敗しませんよ」 「フォクスじゃない、私が」 「私、馬鹿だから」悲観的に私の首に顔を埋める彼女の髪を梳いてやる。容易く私の指から流れ落ちる彼女の髪は闇のなかでも分かるほど滑らかで綺麗だ。いまだすすり泣く声はダイレクトに私の耳に侵食してきて、苦しくなる 「死んじゃうかもね」 淡々と言う彼女の言葉はあながち間違ってはいない。この国にいて安全な場所などあるだろうか?できることなら彼女も一緒に連れて行ってやりたかった。しかし私たちのチームにマネージャーなどというものは必要でもなければ誰も望んではいない、彼女を連れて行けるような言い訳はなにもないのだ。 「でしたら私が帰ってくるまで生き抜いてください」 自分だけこの国から逃げる私は残酷な言葉しか彼女にかけることができない。私にはやはり先のことなんて分かることも分かろうとすることも不可能なのだ |