「死んじゃったんだ」



ぽつり、と呟かれた言葉が空気を揺らす。何がと聞かずとも彼の手の中にあるそれを見れば分かることだ。それを抱きしめることもせずただ腕にのせて眺める彼は悲観しているのか分からない、なにを思っているのかさっぱりな顔をしている





「大好きだったんだ」



「じゃあ泣けばいいじゃない」




「泣いたらいけないんだ、そしたらここから離れられなくなっちゃうから」




そっとそれの頭をなでながら言葉を放つ彼の横に立って空を見上げる。曇り空がむこうに広がってる、もうじき降るのかな。






「もう雨降るよ」




「うん、でも僕はここに居なきゃいけないんだ」




どうしようもなくイラついた。どこまでも頑なな照美の態度がいやに気に障る。悔しくて怒鳴りつけても照美はただ悲しそうに笑って私に帰れといった




「なんで一人で帰らなくちゃいけないの」



「君が居ると僕は泣けないんだよ」


「なんで、」


「君が喜んでしまうから」





的をついた答えにぐっと言葉に詰まる。胸が苦しくなって目から涙が零れ落ちる。嗚咽を漏らさないようにと噛んだ下唇が痛む。照美はまたそれの髪を撫でた。




「君はもうここに居てはいけないんだよ」




幼子に言い聞かせるように呟かれた言葉に膝が崩れ落ちる。認めたくなくて必死に喚いた。それでも照美は私を見ることはせずただただ腕のなかのそれを見つめていた。長い髪が照美の顔を覆っていてなにも表情が読めない




「だから、君はもう帰りな」






沈殿する意識のなか。ぽたり、照美の腕に抱かれた私に涙が降るのが見えた






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