無意識によっておこった春
「いいなぁ、アミーさんの髪の毛」
不意に、後ろから話し掛けられた。振り向くとレライエが下から俺の顔を覗き込んでいる。
「……何がだ」彼女の大きな目には俺が映りこんでいる。彼女が瞬きをするたび、瞳の俺も陽炎のように揺れた。
「……ストレートで、うらやましい」
少し唇を尖らせながら、レライエが言った。
「アタシなんか、くしゃくしゃなのに」彼女が自分の髪を指に絡ませながら言う。
彼女の髪は長い。ほかのデビルたちと比べても、長い部類に入ると思う。
それに加え、彼女の髪には少々、癖が強いようであった。
「別に、どうでもいいじゃないか」
「どうでもよくないもん! みんなさらさらのストレートで、私だけくしゃくしゃだもん…」
そう言うとレライエは少ししょげたようにして、下を見た。
「ストラスちゃんも、サレオスちゃんも、綺麗な髪なのに…」
実を言えば、俺は女と云うものが少し苦手だ。なんでもないことで拗ねるし、なんでもないことで怒る。笑っていたかと思えば、怒っていたりする、面倒くさいことこの上ない。こういう時、グラシャ=ラボラスやバアルは簡単にフォローするだろう。しかし、俺にはどうしたらいいのかがわからない。困った。
下を向いた彼女の長い睫が目に影を作り、紅い瞳がくすむ。同じ色の髪の毛が、俺の前にさらりと垂れてきた。
「……別に、これはこれで綺麗だとは思うがな」
俺は無意識に彼女の髪を一房取った。燃えるように、血のように、鮮やかな紅。
「……!」
レライエと俺の目が合う。彼女の耳が赤くなる。俺は触れていた髪を、速攻で離した。
彼女の目が泳ぐ。俺も目の行き場をなくして、少し上を向いた。
「……すまん」
「だ、だだ大丈夫っ、アタシも変な事いってごめんちょっと弓の練習してくる!失礼!」
レライエは一言でそういって、シルフェさながらのスピードで走り去っていく。紅色の髪を、靡かせて。
「何やってるんだ、俺……」
この気持ちを知るのに、少々時間がかかったのは、言うまでもない。
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萌え板→支部 からの再録。
アミレラを妄想したら萌えた。
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