※血を吐いて情を飲む

※緩くR指定







最近酷く気にくわないことばかりだ、と右の中指で机上を叩きながら伊佐奈は思う。

水族館はいつも通り平常運営で集客率は右肩上がり。ショーの人気も相変わらずで、特に何か問題がある訳じゃない。
しかし、それにも関わらず俺の顔はあれから少しも変わらないのがいけない。

あの事件が起きてから俺は、自分で言うのもなんだが少し丸くなった。
館内の魚達に無理を強要させることはしなくなったし、命令するだけじゃなく自分で動くようにもなった。
それだけでも十分昔と変わったはずだ。それなのに俺の顔半分の不快は少しも拭われない。
しかし、まだそれだけならいい。制限された時間などないのだ。ゆっくり考えてゆけばいい。
問題は…

「失礼します。館長、兎の園長を連れて」
「サメっ!お前ツルッツルじゃな!!」
「触るな。それに何度言えば分かる。俺はシャチだ」

妙にこいつらの仲がいいことだ。

俺は部屋に入ってきた二人を見て顔をしかめ、中指で叩いていた机に爪をたてる。

気にくわない。
あんな笑顔、俺さえ見たことがないのに。
優しく肌を触る手、あの手で椎名から俺に触れてくれたことなど一度もないのに。
何故あんなシャチにはそんな簡単に…っ

「シャチ」

俺が呼ぶと黒い大きな身体をびくりと揺らしてシャチがはいと返事をする。

「…今からショーだろ。準備、あるんじゃないのか?」

俺は不機嫌なオーラを出しながらにっこりと貼付けた笑みをサカマタに向かって投げる。
サカマタには俺が何を言いたいか、すぐに伝わったようだ。
失礼いたしましたと一礼をしたあと、逃げるようにして館長室から出ていった。
椎名は俺の変化に気付かないのか、シャチの姿が消えたのを確認してからキラキラとした目で俺を見た。

「なんじゃ、今からショーやるんかっ!?蒼井華がここのは特別面白いって言っとった!!しかも今日はあのサメも出るんじゃなっ!」

面白そうじゃと跳ねる勢いで腕を振る椎名を見て、もやもやとした感情が俺の心の内を支配する。
俺は座っていたオフィスチェアをぐいっと押して立ち上がり、カツカツと床を踏み締めながら椎名に近付く。
そして自分も見に行くと言い出す前に椎名の手を力いっぱいに引き、その毛むくじゃらの身体を押し倒した。
背中を思い切り打った椎名は痛そうに顔を歪めながらも噛み付くように歯を剥き出して俺を睨んだ。

「なにすん…」
「椎名は、俺よりシャチの方がいいんだ?」
「…は?何ゆうとるんじゃ。つか、その前に早くどけっ!」

俺は身体をうねりながら身体を起こそうとする椎名の右腕を思い切り踏み、左手首を床に押し付けてその口を塞いだ。
無防備に開いた唇の隙間に舌を入れ、その先で歯茎をなぞりながら空いた右手で兎の黒いシャツを捲りあげる。あの小さな兎と同じ白い肌に自分の手を上へ上へと這わせ、向かった先の胸の飾りを引っ掻き、親指の甲でぐりぐりと回す。その瞬間、椎名の身体がびくりと震え、足をバタバタとさせた抵抗が止まる。俺は椎名の口内で絡ませていた舌にチュッと吸い付いた後、名残惜し気に口を離して見下ろしている兎に向かってニヤリと笑った。

「何、椎名。もう感じたの?」
「…っ!!ち、ちがっ」
「違わないだろ。ほら、下は正直に反応してる」

俺はそう言って目の前のベルトを下げて半勃ちになっているそれをギュッと掴むと、椎名は艶やかな悲鳴な声をあげた。
そんな捕食者は優越感の極みに立ち、被食者の耳朶(じだ)を甘噛みしてその耳元で掠れた声で囁く。

「なぁ椎名、お前は俺のだよ。だから他のやつなんか見なくていい」

そう言えば、椎名は軽く潤んだ瞳で俺を見つめて お前はアホじゃと呟いた。


血を吐いて情を飲む
(悋気はどうやら無用のようだ)



 ――――――――――――― 
中途半端に終わってすみませんっ!! しいなさまに捧げますっ。





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