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暗い。
冷たい。
苦しい。

この空間に閉じ込められて30分。
この部屋に時計などないから正確な時間は分からないが、確かそれくらいは経ったはずだ。
しかし今はそんなことなどどうでもいい。

「っは、は、はぁ」

苦しい。
息をどんなに吸っても肺に送り込まれている気がしない。
痛い。
空気が肌から水分奪っていく感覚がはっきりと分かる。
あぁ水の中でこの乾いた身体を潤したい。
もしそれが叶わぬなら、せめて水を…。


海に住む生物が皮膚を乾燥させてしまうということは死を意味する。
このままでは俺もそういう運命を辿ることになるな。

それだけは避けたいと、サカマタは腕に力を入れて枷を壊そうと試みるがさすがは館長が用意したもの、そう簡単になど壊せはしない。

しかしここから離れ、水がある場所に行かなければ俺は海の生物の宿命として、死ぬ。

それを考えるとハハッと笑みが零れる。
こんなとこで死ぬなんて恥辱にも程がある。両手を後ろに拘束されたこんな状態で、しかも元のシャチの姿でもないこんな姿で。

俺もここにいる他の魚達と同じように、ここで朽ち果てるのか。
もうあの広大な海には戻れないのか。
俺は、もう…この、ま、ま




サカマタの脳内の思考が一瞬にしてブツリと途切れた。
意識がぼんやりと薄れ、やがて頭に白く霧がかかったように何も分からなくなる。
身体から段々と力が抜け、腕がだらりと床に落ちた。
瞼が重い。
ゆっくりとそれを閉じる。
そしてサカマタの思考から全てが消えかけた、その時




「死にそうだな、シャチ」



ぴちゃり
水が身体に染み渡る感覚。
その感覚に途切れかけた意識が再び現実へと浮かびあがる。
顔をあげると塩水が入ったペットボトルを逆さまにしてサカマタを見つめる館長の姿があった。
伊佐奈はボトルの中身がサカマタの肌へ全て滑り落ちたのを確認すると、空になったそれを放り投げて笑う。

「自分の立場、分かった?」

朦朧とした意識に伊佐奈の顔がぐにゃりと歪み、その声はゆらゆらと揺れる。
そんなサカマタの顎に伊佐奈は自分の指を引っ掛けて上を向かせ、その室内にやっと響くように声を潜めて囁く。

「お前は俺の言う事だけ聞いていればいい。他の雑魚の申し出など放っておけ。お前は俺のために働いて俺のためにこの水族館を大きくする。それだけをしてればいいんだよ」
そう言うと伊佐奈はサカマタの顎から手を外し、その手を白いスーツの隙間にススッと這わせる。
ビクリと身体が震えて身体が反射的にのけ反るが、手首についた枷で拘束された身体はいうことを効かない。


「…まぁ今回だけ鮪のことは許してやるよ。ただ、次はない。それをよく覚えておけ」


伊佐奈はそう呟くと自分の頭に嵌めているヘルメットを取ってサカマタの首筋に噛み付く。
それは黒い肌に赤い傷が深く残す。
伊佐奈は自分のつけた傷を見つめてさも愉快そうに笑い、サカマタへと目を向ける。

「なぁシャチ。お前はこうして俺の手でなぶられてれるのがいいんだろ?なぁ?」

有無を言わせぬその言葉にサカマタは何も言えず堪える。
もう自分が何をしても、貴方から逃れることなど出来はしないと悟った。



堕落したフリア
(この日、俺は全てを諦めた)


 ―――――――――― 
む、無駄に長くてすみませんっ!妄想が止まらず、こんな長文になってしまいました…。
ヨルノケモさまに捧げますっ!!





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