※欲望に濡れた淡色

※R指定






「これ、なんだと思う?」




そう言って目の前にちらつかせられたのは異様な色をした液体の入っている小さなビン。
わしはそれに鼻を近付けてすぐ眉をしかめる。

「へんな匂いじゃな。この飲みモン腐っとるのか」
「まさか。そうだったらとっくに捨ててる」

じゃあなんじゃと尋ねれば 無言のままニコニコと笑いかけられた。
その表情は怪しい上に薄気味悪い。
…相変わらず何を考えているのか分からん男だ。
わしは伊佐奈の感情を読むのを諦め、机の上に置いて取っておいた人参のジュースを取ろうと手を延ばした。
その時、


ぽちゃり


一瞬、身体の動きが停止する。
しかしその間にも混ざっていく二つの液体に、わしは悲鳴を上げ慌てて机からジュースのコップを離す。

あっ と呟く伊佐奈。
わしはわなわなと身体を震わせて鯨男に向かってアホっ!と叫んだ。

「何してくれとんじゃ!おまっ…わしの大事な人参によくも」
「大丈夫だって。全然味変わってないから」
「あんな臭いモン入れて何も変わらん訳じゃろ!」
「本当だって。試しに飲んでみろよ。普通だから」

そう言われてもまだ文句が言い足りなかったが そうじゃないなら俺が飲むよ という鯨男の言葉に出かかったものを飲み込む。
そして自分の手にあるコップを一瞥。

「…ほんとに何もないんだな?」
「だから味は変わってないって」


伊佐奈は呆れたように大袈裟に両手を広げる。
わしはもう一度手にあるコップと伊佐奈を見比べ、意を決してコップの中身を飲み干す。
すると伊佐奈が言った通り、味に変わりはない。その上原液だと臭ったくさみも気にならなかった。
だからあまり気にはしていなかった。
他の物に入れて使うのか と思うくらいにしか考えなかった。
だから気がつかなかったのだ。
わしの横で不気味に笑う鯨の表情に。


 ――――――――――――― 

カサリ

伊佐奈の手の中で薄い紙の束が音を立てる。
あれから椎名が「近く寄るな」と威嚇すると意外にもあっさり伊佐奈は身を引いた。
そして今はシャチのサカマタを部屋に通してそいつからの報告を聞いていた。


「今月は売上2割増し、総員数も上々です」
「ん」サカマタから淡々と紡ぎ出される言葉の羅列。
椎名には何のことやらさっぱり分からない。
…って、

(いつまでわしはここにいる気じゃ)

椎名がここに来た理由はただ伊佐奈に暇潰しがてら呼ばれたからであり、この状況の中その理由は最早無意味。
それにあまり遅いと蒼井華やウワバミに心配される。


(…帰るか)


椎名はそう思って立ち上がり、部屋の出入口へ足を向けかけた、その時。

「――ッ!」

グラリと世界が揺れた。
思わず座っていた椅子に腰を下ろす。


「ッは…」

身体が熱い。
それも空気の暑さからじゃなく、自身の奥深い場所からくる熱さだ。
椎名は首に巻いていた赤いマフラーを乱暴に外し放り投げて大きく息を吐く。
しかし身体の熱は一向に引く気配がなく、寧ろ先程よりも酷くなりつつあった。
しかも関係のない場所まで反応を示し始め、椎名は口から途切れた息の音を出す。
少し動いて衣服とそれが擦られるだけで声が出てしまいそうになり、唇を噛み締めてそれに堪える。

(なん、なんじゃ…これは)

すると、


「もう効いてきたのか。思ったより早いな」


パサリと書類の束が落ちる音が聞こえ、伊佐奈の方を睨む。
いつの間にか部屋からあのシャチは消えていて、室内には椎名と伊佐奈、二人だけとなっていた。


「伊佐、奈…おまえ、何…を」
「俺は直接的には何もしてないよ」
「直接、的…に、は…?」


椎名は先程までの自身の行動を思いおこす。
そして一つ、絶対的に不自然なことが頭に浮び、目を見開く。


「まさか、おまえ」

伊佐奈の手で揺れるのは先程の小さなビン。

「まったく、兎は危機感ってもんがないよね。そんなんだと俺、心配し過ぎてお前のこと監禁したくなっちゃうよ」

伊佐奈はにこりと笑いながら近付いてくるもんだから、慌てて後ろに下がる。
しかしずさりと背中に冷たい感触。
見ればこの狭い部屋の壁で、逃げ道は、ない。


「っん、あ…」
「へぇ、なんにもしてないのにもう勃ってる」

いつの間にベルトを外されていたのか、ズボンの中に手が入り込んできて軽く盛り上がってる自身を布ごしに握られる。
びくんと身体が跳ねて息が上がる。

押し返そうと手を延ばすがその直後に自身を上下に抜かれ、伊佐奈の肩にもたれかかるような形になってしまった。
上からクスクスと笑う声がする。

「積極的だな。これもこの薬のせいか?」
「やかま……っ、ふ…」

文句を吐き出す前に目の前の男が手の動きを激しくし始め、手を当て口を閉じるが遅い。
快感が体内で膨れ上がり、身体が痺れる感覚に陥る。


「あっ、んあァ…あぁ」


いつもなら我慢出来る声が変に色気を纏って零れる。

「あ、んぁ…ふ、あぁ」
「一度イっとくか」

カリッと鯨男の爪に自身の先端を引っかれ、身体の奥にある熱がずくりと疼く。
その瞬間、勢いよく自身から精が吐き出された。


「っは、はぁ…は」
「…イくのも早いな」
「っ!!う、うるさい!大体お前、がっ」
「しかももう欲求不満?」

伊佐奈は椎名の耳元でそう呟き、下の穴へ指をつぷりと入れる。
中は薬のせいか、弛緩していて容易に伊佐奈の右の指を飲み込んだ。

「うっ、…ふ」

自分の中でぬるぬる動く指の違和感と再び勃ち始めた自身を擦られる快感で生理的な涙が零れる。
伊佐奈はそれを左の手の甲で拭う。

「兎、」
「いさ、なっ…、もっ、はやく」
「…けど、兎」
「いっ、から……はや、く」
「っ…お前声エロすぎ」

伊佐奈は指抜いて自分のズボンに手をかけ、自身のそれを出す。
そしてそれを椎名の後孔に当てがたう。

「…入れるぞ」

低い声と同時にずぷずぷと指より遥かに大きな質量が椎名の中に埋め込まれていく。
そんなに慣らしていないそこは薬のおかげか痛みをそんなに感じない。
しかし、椎名は急な変化に後孔を締めてしまい伊佐奈は小さく呻く。

「しい、な…もうちょっ、緩く…」
「っは、はぁ…っ」
「そ。…動かすぞ」


椎名は息をゆっくりと吐き出して後孔に入れていた力を抜く。
すると伊佐奈は少し荒い息のまま、椎名の最奥へと自身の雄を進め、律動を開始する。
動く度に漏れる自分の甘い声。
分かってるのに止まらない。
次々と襲い掛かる快楽に自分でも腰を動かしてしまう。
頬に伊佐奈の不規則的な息がかかるれば、それだけで欲情する身体は堪えをしらず、無意識の内に艶めかしい声が出る。
その声に伊佐奈は自身の質量を大きくし、椎名の奥のコリを思い切りついた。

「うぁッ」
「気持ちいいか?兎」
「きく、なっ…はッ…」


声を荒げて睨んでも目の前の男には何の効果もない。
むしろ膜のかかった瞳では彼の性的興奮を煽るだけである。
伊佐奈は腰を動かし律動を激しくする。
その度に二人の結合部分からは卑猥な水音がくちゅりと放たれ、椎名の敏感な耳を犯す。
そのうち伊佐奈の手は椎名の雄にのび、口からは抑えきれない喘ぎが零れる。
段々と早くなる動きに椎名は限界へと追い詰められる。


「いさ、なァッ!!」
「ッ…しい…な、」



伊佐奈が椎名の最奥にある前立腺を突くと、叫びと共にどぴゅりと白濁の液体が自身から吐き出された。
それより少し遅れて椎名の奥へ熱い精液が注がれ、ふるりと身体が震えた。
二人の荒れた息が室内に響く。



「っは、もう…ええじゃろ。早う抜け。わしは明日も忙し……ふっ」
「忙しい?…あの寂れた動物園に限ってそれはないだろう?なぁ椎名、もう少し付き合え」
「なっ!?おまっ、ほんとに性欲の限りがない奴じゃな!!」
「褒め言葉をどうもありがとう。そういう椎名だってまだ足りてないみたいだけど」
「っ!!わ、わしは大丈夫……ぁッ」
「遠慮するなって。ほら、もう一回。な?」
「あっああぁッ!!」











次の日、腰を押さえてプンプンと怒る兎の園長と謝っているのに何故か満面の笑顔の鯨の館長の姿が見られたのは、言うまでもない。


欲望に濡れた淡色
(薄れたそれは、君が愛おしいという俺なりの愛情表現だと、きっと君は分からない)


――――――――――― 

エロって…やっぱ難しいですね。フミィさま、こんな駄文でよろしければ貰ってやってください!!





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