マフラー
｢っす。…はよ、静雄｣
｢おはようございま…ってトムさん、早いっすね｣
なにが と首を傾げる上司にそれそれと彼の首に巻き付いている布地を指さす。
すると彼は あぁ、これ っとそれをつまんで笑う。
｢俺、冬駄目なんだわ｣
｢あー、中学ん時もセーター着てましたもんね｣
｢そーそー｣
静雄の言葉に相槌をうっていたトムは、いきなりくしゅり と小さなくしゃみをすると、身体を小刻みに震わせた。
｢あﾞー…さみぃ。明日はもっと厚着してくっかな｣
｢今からそんなんで真冬どうすんすか｣
｢つったって、今年は特に寒いべ｣
トムは手にハァと息を吹きかけ、両の手をスリスリと擦り合わせる。
でも。
確かに言われてみればそうである。
周りを軽く見渡すだけで自分の隣を歩く上司と同じようにそれをつけて歩く人の姿が目につき、もう本格的な冬のようである。
｢まぁ…確かに寒いっすけど｣
｢だろ?寒みぃんだよ、今年は。つかお前はこれ、持ってねぇの?｣
｢…はぁ。だって俺、必要ありませんでしもん｣
｢今年はそれじゃあ堪えらんねーべ?…あっ、そだ。俺がお前のマフラー買ってやるよ。最近奢ってなかったし｣
｢えっ。いいっすよ、そんなん。だって俺…｣
｢遠慮すんなって。今日は運がいいことに仕事が午後からだしよ、今の内に買っとこうや｣
そう言うとトムは俺の返事も聞かずに早足でずんずんと前を歩き始めた。
今から俺が何を否定しようと、彼には軽く交わされてしまうのは目に見えている。
それならば。
｢トムさん｣
｢ん?｣
｢…マフラー。どんなやつとか、頼んでもいいっすか｣
｢おー。言ってみ?｣
くるりと彼は身体を反転させて静雄と向かい合わせる。
首周りに巻かれたその布は冬の冷たい風によってふわりと揺れる。
静雄は思わずそれに手を伸ばし、手の平でそれの感触を堪能した後、不思議そうな顔で自分を見るトムに微笑み、口を開く。
｢先輩と一緒に巻けるようなマフラーがいいんすけど｣
駄目っすか?
そう言えば、始め ぼーっとしていたトムの顔がみるみる内に赤くなる。
そんな彼を見て可愛いなぁ と思っていたらいつの間にか俺をおいて一人先に行ってしまったらしい。
彼の姿が何処にも見当たらず、俺は一人白い息を吐いた。
…冬はまだまだ長いらしい。
マフラー
(ね、ね、トムさん。買いに行きましょうよ)
(あ、あほかっ!男二人でとかむさ苦し…ってこら、俺のを取るな。俺がさみぃ)
(俺も急に寒くなりました。って訳で俺にも分けて下さい)
(ほんっとお前は…)
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