冗談なんて一言も

※中学時代






「俺、恋したことないんですよね」


快晴の青空の下。
立入禁止の屋上で俺の二つ下の後輩は急にそんなことをつぶやいた。
俺はその言葉に口をポカンと開けて、読んでいた本から目線を静雄に移す。
そんな静雄はというと、苺ミルクをキュイキュイ飲みながら呑気に空なんか仰いでいる。




恋したことがない?
じゃあ一週間前のあれはなんだったんだ。
俺は静雄の横顔を見つめながら、一週間前の帰り道を思い出す。




その日俺は静雄に「好きだ」と、…告白された。
そしたら「付き合ってください」と、まぁそーいう自然な流れになるよな。
俺は静雄のことが嫌いじゃない…っていうか寧ろ好きだったから、悩む間もなく首を縦に振って。
それから一週間、何があったという訳もなく現在に至る……




「トム先輩?」
「っ!?おっ、おぉ」
ひょいと視界の隅からいきなり顔を出した静雄に驚きながら思考を巡らせる。

(…こうやって思い返すと、あれは夢だったのかもと思えてならねぇ)


俺は静雄に聞こえないように溜息をつく。
が、静雄には聞こえていたようだ。
俺の顔を覗き込みながら静雄は笑う。
「もしかして一週間前の俺の告白、疑ってるんすか?」
「…だってお前、今恋したことねぇって……」
段々自分の声が小さくなっていくのが分かる。
はぁ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
俺は静雄の顔が見れなくなって下を向いたが、静雄のプッと吹き出した音にすぐ顔を上げる。
すると、目の前に声を押し殺して笑う静雄の姿が…って



「お前なぁ、人がどんな思いで言ってるか分かって…」
「す、すいません。だって……トム先輩かわいっ…」
「かわっ!?」
静雄の言葉は全ていきなりすぎる。
…まぁ二つも年の離れた後輩の言葉に酷く動揺する俺も俺だが。

そんなことをしているうちに、静雄は落ち着いたようでコホンと咳ばらいをした後、右の人差し指を空に向かって突き出し、俺にぐいっと顔を近付ける。


「知ってますか、トム先輩。」
「な、なんだよ…」
「恋って亡くなった人にすげぇ惹かれて切なく思うことなんですって」
「…は?」
「だから、」
静雄はそういうと一瞬にして俺の唇を奪い、立ち上がったかと思うと大きな声で叫んだ。



「俺はトム先輩のこと、愛してますよ」




そうやって目の前でにこりと笑う静雄を、俺はきっととても間抜けな顔で見ていたことだろう。
だがこれでよく分かった。
疑うまでもなく俺は、随分とこの後輩に惚れ込まれている、ということが。


冗談なんて一言も
(愛されてるのは嬉しいけど…先輩からかうのはやめなさい)
(はーい)





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