優しく笑う彼に
※中学時代
放課後の図書室、多量の本が積まれたこの部屋で静雄は頭を悩ませる。
「この数がXだと、この式はここと同じだろ?つまり…」
一週間後に控えた期末テスト。
今の期間はどの生徒も必死になって机に向かっている期間である。
しかし、毎日売られた喧嘩を買っていた静雄は、当然まともに授業を受けているはずもない訳で。
そんな静雄は今現在、先輩である田中トムに数学を教わっている最中であった。
「だから答はこうなるってこった」
「はぁ……こうなるんすか」
静雄は自分の隣でさらりと問題を解いてみせたトムの書いた字をジッと見つめる。
綺麗な字だな…
薄い紙の上に載った彼の字は男のものとは思えないほど綺麗なもので静雄は思わず見とれてしまっていた。
すると…
バコン
「いてっ」
思わず静雄は反射的に手を頭にのせる。
横を見ると呆れた顔をした先輩の姿。
「お前今ぜってぇ真面目に考えてなかっただろ」
「ちゃんと考えてましたよ…ちゃんと」
「なんだその間は」
何も言えなくなった静雄がアハハと渇いた声で笑うと、トムは盛大に溜息をついてから静雄の髪をグシャグシャと撫でる。
「ったぁくおめぇはー…一週間後泣くはめになっても知らねーぞ?」
俺は彼の手が好きだ
優しくて温かいこの彼の手は、俺を安心させる
だけどそれと同時になんだか気恥ずかしくなって
いつも、触れられた所から熱くなっていくような感覚に陥る
「おーい、静雄?」
彼の声にハッとして顔をあげると不思議そうに静雄の顔を覗きこむトムがいた。
自分の頭の上にあった彼の手は、いつの間にか元の場所に戻っている。
「もう遅いから早く帰んぞ。あんま遅いとお袋さん心配すんべ?」
静雄はその言葉を聞いて外を見る。
今まで気が付かなかったが、外はもうすぐ夕日が沈みそうであった。
既にトムの方は帰る準備が終わっていて、先行ってんぞと彼は静雄に背を向ける。
その背中に向かって静雄は思いっきり叫ぶ。
「トム先輩!!」
彼が振り返る。
俺は彼に抱く思いをいつか伝えられるだろうか。
言ったら嫌われるかもって思うからまだ言う自信が無いけど
でもいつか、それを振り切って言えるようになったら、その時は…
「明日は理科、教えてください」
自分の思い全部吐き出して、精一杯思いを伝えよう
そしたら彼は、
今俺に向いてるような笑顔でまた笑ってくれるだろうか
「じゃそのかわり順位50位以内取れよ?…そしたらなんかおごってやる」
この一言で、静雄が一週間後のテストで何位を取ったのかなど、言うまでもない。
優しく笑う彼に
(現金な奴だなー)
(貰えるもんは貰いますよ、俺成長期ですし)
(…お前これ以上伸びなくていいよ)
(嫌っすよ!絶対先輩抜かしますからっ!)
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