二人乗り

※学パロ
サカマタ人型

帰りますか、というあいつの声が下校時刻のチャイムと重なる。最近日が長くなってきて気がつかなかったが、室内についている時計をみるとその針はすでに6時を回っていた。外を見ても、グラウンドには人影はなく、代わりに片付け忘れたのか、一つのサッカーボールが夕焼けに照らされて輝いていた。俺は手の中にあった書類を机上を使って揃えながら、すでに鞄を持ち、帰る支度をしていた俺の右腕となる男を見た。彼も同じように書類の束を手の中に持っていた。しかし大分その厚さは違う。全くいつも仕事が早いものだ。

「会長?帰らないんですか?」

俺はそうやってサカマタの背中をジーッと見つめていると、ふぃにそれは振り返り、小さく首を傾けた。どうやら視線だけではなく、身体までもがこの男に向いていたようだ。なんだかそう思うとそれは妙に恥ずかしい行為に思えてきて、俺はそれを紛らすように書類の端を思い切り机に叩きつけた。すると、その拍子に紙の束は叩きつけたところから折れまがった。しまった、これは明日の委員会で提出する議題案なのに。

「やべ…」
「…まったく、貴方は何をなさっているんですか」

呆れたようなため息と共に横から腕が伸びてきたかと思うと、その手は俺の手の中からスッと活字だらけの紙束のを取った。ハッとして思わず振り返ると、彼の細く長い指先が書類を一枚ずつ真っ直ぐに整えていた。その仕草を見ていることにさえ、なんだか恥ずかしいような嬉しいような複雑な気持ちを持って、俺は一人立ち尽くす。




この気持ちに気が付いたのは本当に最近だった。サカマタと俺は生徒会役員としてこうやって一年ほど一緒に仕事をしてきたというのに、今までずっと分からなかった。もしかしたら知らないふりをしていたのかもしれない。だってこういう気持ちって普通異性に抱くものだと思っていたから。自覚してしまったら自分は異常者になるんだと思ったんだ。だけど日に日に膨らむこの思いは留まることを知らず、気が付けばサカマタを目で追っていて。あぁきっとこれって重症だと自分で自覚した。だけど分かったからってなにか行動を起こせるかって言われたら答えはNoだ。そんな命懸けるくらいの勇気、俺は持ってない。それに世間の目もある…なんて。俺はただ逃げて何もかも先延ばしにしている臆病者で。また今日もそれは伝えられなくて、心がキリキリと痛くなるばかり。でもどうしたらいいか分からない。だってまだ嫌われたくない。まだ一緒にいたい。女々しい、なんて言われなくても俺が一番、分かってる。


「会長、後ろどうぞ」


夕闇が迫る。サカマタは寂れた自転車置場から自分のそれを取り出し、俺を後頭部の席へ促した。俺は少し遠慮がちにそれ跨ぐと、その瞬間サカマタの手が俺の手を掴み、ぐいっと目の前の大きな背中へ回された。その拍子に背中にくっついた頬にサカマタの温度が移る。

「落ちたら危ないですから、ね?」

そう言ってからサカマタは自分の肩ごしで笑うと、ペダルに足をかけた。ゆっくりとその前後にあるタイヤは回転し始め、ほんの数秒で学校の校門を抜けた。



あぁ、あぁ。
お前はなんでそんな簡単に俺の心を揺らすの。
今まさにじりじりと心の焼け付く音が聴こえてくるようで。あぁサカマタにそれは聴こえてないだろうか。
いや、むしろ聴こえていた方がいいかもしれない。だってそしたらきっとサカマタだって自覚する。俺にそんなむやみやたらと優しい顔なんてしなくなる。あー、でもそれもつらいよな。
だけどその優しさは嬉しいという感情、それ以上に痛いんだ。
…それならもう伝えて楽になった方が



「伊佐奈」


サカマタの低く色気のある声が響く。顔を背中から離して見上げると、彼はこちらをみず、ただ前だけを見据えていた。わいわいがやがやとした街並を抜け、物静かな路地裏に自転車は出る。


「俺、貴方が好きです」


キキーッとタイヤがアスファルトと擦れる音。近付く距離。絡まる視線。


「え」
「だから付き合って、くれませんか…?」


え、それって今こういう場面で言うこと?
もっとほら、体育館裏とか屋上とか、家の前とか。考えればいくらでも場所なんてあるのに。
なんでお前こんな薄暗いとこ選んだの。
言いたいことが沢山出て来た。全部笑って言ってやりたかった。
だけど、それよりも今俺の前で顔を赤く染めるお前が、きっと俺と同じように悩んできたのかな、なんて考えたら。そんなことどうでもよくなって。


俺はサカマタの背中に顔を埋めて、一つ、好きの気持ちを込めて頷いた。

二人乗り
(俺の手の温かさが、君の身体の隅まで染み込んで)
(もう一生俺から逃れられなくなったなら、いい)





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