おんぶ

※学パロ

ぐきり と渇いた音がしたのは気のせいだと思った。
だってそんな音を俺は生まれてこのかた一度も聞いたことがなかったし、ましてやそんな音を出す物の存在さえ知らなかったし。だからまぁ少し右足が痛む気がしたけどそのままにしといた。時間が経てば治るんじゃないかと思った。
だけどそれは完全な予測違いで、時間が経てば経つほど、長い距離を歩けば歩くほど、その鈍い音を発した右足は赤く腫れ上がって。やっとことの重大さに気が付いた。でもそれは大分遅かった。今はもう放課後だし、友達とかみんな帰ったし。



(しかも保健室とか遠…)


だって保健室があるのはこの校舎と隣接する東側の校舎の一階で、俺がいるのは三階。行くにしてもリスクがでかい。しかも足いてぇし、何よりめんどくさい。

(…家帰ってから湿布でも引っ張り出して貼っとけばいいか)


俺はそうやって自分の中で自己完結し、足を軽く引きずるようにして教室を出た。幸いなことに俺の教室はすぐ横に階段があるという非常に便利な位置で、遅刻しそうになった時なんかすごく便利だ。だから滑り込みセーフの奴が多い。勿論俺もその一人、つかそのせいでこんな辛い思いしなきゃいけねぇんだけどな。


「ん?…おぉ!なんと、デビじゃあないかっ!」


そんなくだらないことを思い返していると、脳裏に直接響くクリアな声。心の内で思わずげっと呟いたのは言うまでもない。

「…しかしこんな時間までどうして……は、そうかっ、デビは私を待っていてくれたのか!」
「な訳けねぇだろろ…つつかお前委員会終わったのかか?」


抱きしめてきそうな勢いの一角から、俺は痛む足を床から離さずスッと移動して後ろに下がった。
一角の所属する風紀委員はいつもこんな早く終わらないはずであるが。

「ふむ、今月はそんなに違反者がいなかったのだ。規律を守る者が増えたということは実に良いことっ!!」

あぁ、まったく運の悪い。こいつがいると色々あとから面倒なことになるからな…。

「ふーん、そそりゃあよかかったなな。じゃああ、お俺はここれで」


さっさと退散するか、と俺は出来るだけ早足で一角の横を過ぎようとした。のだが、

「なにをいうかっ!せっかく君が待っていてくれたというのに!!奇遇なことに今日は部活がない。デビ、共に帰宅しようではないかっ!」
「いっ……」


ぐいっと右腕を引かれ、体重が右に傾く。腫れた右足にかかった重さに激痛が走り、思わず声と一緒に顔を歪めた。しまった、と思った時にはもう遅い。

「デビっ!この腫れた足はどうしたのだ!!」


俺の一瞬の動きで俺の足の痛みに気付いたのであろう。一角は目を見開いて赤くなっている俺の右の足首を見つめていた。俺は意を決して口を開く。

「あ朝、き教室に入る時に捻挫して…」

一角の醸し出す雰囲気に圧倒されて、いつのまにか段々と声が小さくなり、最後には消えてしまった。なんだか小さなガキのような気分だった。悪いテストを親に見せて、それに対して何か言い訳する、みたいな。

俺はちらっと一角の表情を伺うように顔をゆっくりとあげる。一角は目を閉じ、何か考えるような仕草をした次の瞬間、カッと目を見開いたかと思うと俺に向かってぴしっと人差し指を真っ直ぐに向けた。そしてそれに身じろぐ俺に構わず、廊下に響くくらいの張った大きな声で叫んだ。


「…デビの横着者っ!!」
「……は?」


ぽけーっと口を開くと真剣な顔をした一角がずぃっと俺に顔を近付けてきた。思わずたじろいで後ろに下がろうとしたが、足首の痛みに踏み止まる。

「不快を感じたならそういうことは真っ先恋人である私に言うべきであろうっ!!それなのに、君ときたらっ!!」

…あぁ、また始まった。一角の恋やら愛やらの熱弁は長いんだよな…。一角の興奮気味の高い声が痛む足の奥にある骨へ響く感覚。痛い、これは結構本格的に。
俺は歩き出そうと足を動かそうとしてみるが、動かない。少し動かすだけで骨が軋む。やばい、もうこれでは一人で保健室へはいけない。俺は今頭の中にある案以外を少し考えてはみるるものの、どんなに考えても選択肢は一つしか存在しなかった。俺は今だ熱弁中の風紀委員長のブレザーの袖をくいっと引っ張った。ぱたりと止まった早口の言葉の代わりに少しも外すことを許さないというような視線が絡み付く。俺はぐっと身を固くする。

「い一角…ほ保健室にに連れてていってくくれ、足痛いい」




「しょうがないな…。よし、デビ行くぞ!」

一角は俺に向かってそう叫んだかと思うといきなり背中を向けて俺の前に立った。そして後ろ向きのまま俺の腰に手を回したかと思うと、それとほぼ同時に俺の足は床という支えをなくした。一瞬の間、そして俺はようやく自分に起こっている出来事の意味に気がつく。

「ちょっ…い一角、俺はこんななこと頼んだ覚ええはないいっ」
「私も頼まれた覚えがない!しかしこちらの方が早く、何より都合が良い!!…よし、これなら問題ないぞデビっ!!しっかり掴まっていたまえよ!!」
「ややめろぉぉぉおっ!!」


それから一角が走り出した数分後、二人は伊佐奈先生にバッキバキにされたとさっ。

おんぶ
(デビ、今度は学校内ではなく外でしよう!)
(やるかぁっ!!)





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