お邪魔蟲出現


俺は今、非常に危機的状況にある。



池袋のある路上は異様に閑散としていた。
いつもならこの昼下がりの時間帯、多く人々が行き交うはずの場所である。もちろん池袋に休日などない為、駅前などはいつも通り騒がしい。

そう、まるでこの場所だけを人が避けているかのように。


(つーか、これ見て避けねぇ方がすごいべ)


そんな中、田中トムは冷や汗をかきながらその路地に佇んでいた。


トムの目の前には、コンクリートの地面から引っこ抜いたであろう道路標識を持った【池袋喧嘩人形】こと自分の後輩である平和島静雄がこちらを睨み、唸っている姿があった。


…先言っておくが、俺は静雄を怒らせた覚えなどこれっぽっちもない。
ただ今現在俺の肩を掴んでニヤニヤと笑っている男を見れば、誰しもが納得するであろうことは確かだ。



「いざやぁ…てめぇトムさんから離れやがれ」
「えぇー、じゃあ離れたら静ちゃん俺のこと見逃してくれる?」
「な訳あるか!!」


静雄は顔をより一層顰めて、俺達の足元に広がるコンクリートに道路標識を叩きつける。

おーい、静雄。
あんま公共物壊してくれるなよ。


俺は心の中で静雄にそう呟く。そんな中、静雄を茶化す情報屋、折原臨也は ひゃあ、静ちゃんこわぁい などと余計静雄の怒りを買うような言葉を発する。


…もう少しで休憩終わりなんだけどなぁ。静雄、これじゃあ止まりそうにねぇし。


トムはチラッと腕時計に視線を向け、しょうがねぇなぁ と臨也の方を向く。


「なぁ…今日はとりあえず帰ってくんねぇ?俺ら、お前みたく暇人してねぇからよ」
「あれぇ?その言い方だと俺がいつも遊んでるみたいに聞こえるなぁ」
「実際そう言ってんべ」


そう言ってやると目の前の情報屋はトムさん、ひどいなぁ と大袈裟に肩を竦めながらも俺からパッと手を離す。


「…まぁこれ以上俺がここにいたら池袋崩壊しかけないですからね、そろそろ退散しますよ、でーも」


そこまで呟いた臨也は、いきなりトムに顔を近付け……




チュッ


軽いリップ音。
それと共に聞こえた道路標識が落ちた音。
そして静寂。


「ん、トムさんの唇柔らかーい。女の子みたい。」

臨也は顔を離し、カラカラと笑う。俺は何がなんだか分からずにポカンとしていると、後ろからズシリと何かが軋む音がして我に返る。


「いーざぁやぁくーん。てめぇ俺のトムさんに何してくれちゃってんだぁ?」
「あっれぇ静ちゃん見てて分かんなかったの?キスだよ、キス。まぁ静ちゃんにはまだはや…」
「殺す!!」


そう言って静雄が投げた自販機を臨也はヒラリと躱し、じゃトムさん、お仕事頑張ってー と走り去った。
もちろん静雄も道路標識を片手に臨也を追い掛ける。
一人路地に取り残されたトムは二人の姿が見えなくなってから小さく溜息をついて呟く。


「…仕事、再開すっか」


トムは周りからの視線など気にしていないというようにタバコに火をつけ、歩き出す。

そしてそれを合図にしたかのように人々動きだし、いつも通りの池袋が戻ってきた。


―ただ今日はいつもの倍ほど自販機がスクラップとなったことをまだ誰も知らない。





[おまけ]↓







「毎回思うけどさ、静ちゃんって奥手だよねぇ。そんなことしてるから全然発展しないんだよ…っと。」
「うるせぇ!!お前は黙って殴られてろ」
「それは出来ないお願いだなぁ。そんなにモタモタしてるとトムさん、俺が奪っちゃうよぉ?」
「!?」










「――――ってな会話を偶然聞いちまったんだが、お前どっち取んの?」
「どっちって…どっち」
「平和島静雄と折原臨也」
「…なんで選択肢二つあんのか分かんねーんだけど」
「は?だってお前今の流れからして…」
「俺は静雄一筋だよ」



(トムさんっ///)




お邪魔蟲出現
(だけどそんなのいたって俺らの愛は永久不滅!!)



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