甘い恋の唄


「あれっ、田中先輩じゃないっすか。」


ある午後の昼下がり、午前中の取り立てを終えた二人がマックで休憩がてら昼食をとっていた時、ふいに二人の上に見知らぬ声が降りかかり、同時に声の方へと振り返る。


…誰だ、こいつ


静雄は声をかけてきた見知らぬ男をサングラスごしに軽く睨むが、先輩の方は違った。

「おー遼じゃん、久々だなぁ。…つか、いつになっても変わんねぇのな、お前」
トムがそう言って笑うと、遼と呼ばれた男もそう言う先輩は変わりすぎっすよと笑った。


…トムさんの知り合い?


一人話しについていけない静雄はバニラシェイクを両手にキュイキュイとそれを吸いながら見知らぬ男とトムの顔を交互に見る。




トムさんが楽しそうに笑っている。
だけどその笑顔はいつものように俺へ向いているもんじゃない。
俺はいつも彼の笑顔を身近で感じているはずなの、に


(自分じゃない誰かに向いている笑顔の方が楽しそう…だなんて)



それだけで不安になる。





「じゃ俺、そろそろ」
「おー、またな」


遼とトムが呼んだ男は、チラッと腕時計を見た後、トムに軽く頭を下げて店内から出ていった。
トムは彼の背中が見えなくなるまで彼を視線で見送った後、すっかり冷めたブラックのコーヒーに手を伸ばす。
すると、目の前に座っている静雄がジッとトムに視線を向けているのに気がつき、彼を紹介するのを忘れてたことを思い出す。
しかし、静雄は自分に関係のないその場限りの人物の事を覚えるのが苦手だ。それを知っていたトムは、別に言わなくてもいいかと静雄に彼のことを説明するのを止めた。


…しかし


「トムさん」
「ん?」
「あいつ、誰っすか?」



…何故か今日は違った。
いつもなら何も触れずにハンバーガーをもふもふ食べているはずの静雄が今日は違った。


「あーあいつはな、遼つーんだけど…」
「それは知ってます。いつ知り合ったやつなんすか」


今日の静雄は妙に突っ掛かってくる。
マックに入る前はいつもと同じだったはずなんだけどな…。


「俺の高校ん時の部活の後輩でよく遊びに…」
「二人っきりでっすか!」



…あーそうか、
静雄、そういうことか
もしかしてお前


「嫉妬してんの?」
「っ!?」

あっこりゃあ図星の顔だ。あーあー静雄の奴、段々顔赤くなってんべ。
…まいったな


「な、なんでそこで笑うんすか…」
「いや、だって…」


あんまりにもお前が可愛いから


そう言えば静雄は今よりも顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。




そうだ、そんな彼に不意打ちのキスを送ろう
きっと彼は拍子の抜けた顔をした後、今までで一番真っ赤な顔をするだろう
そしたらそんな彼になんて言葉をかけてやろう
今までで一番甘い台詞で、

俺はお前にベタ惚れだから、浮気なんか絶対しないってことを伝えてやろう

そしたら、彼は…


甘い恋の唄
(どんな顔して笑うだろうか?)


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