或る朝の約束


「っは…はぁはぁ」

いつもと同じ爽やかな朝。
朝日が昇り、太陽が池袋の町を照らし始める。
日曜日の今日、俺はベットから息を切らして飛び起きた。荒れた息の心苦しさをそのままに、俺はすぐさま身体を右左と動かして彼の姿を探す。そして彼が一定の寝息を立てている姿を確認すると、緊張の糸が切れて思わず一つ大きな息を吐き出した。


(夢…か)


俺は勢いよく起きた反動でクシャクシャになった毛布をそっと直しながら愛しい彼の寝顔を見つめる。





悪い、悪い夢を見た。
彼が俺を庇って、
死んでしまう夢。
俺が受けたらかすり傷で済むはずのものをわざわざ彼が俺の前に立ってそれで、それ…で……。



そうやって自分が見た悪夢を頭の中に浮かべているうちに目の前で眠っている彼はモゾモゾと動き、眠そうな唸り声を小さくあげながらゆっくりと目をあけた。
俺は慌ててベッドの端まで離れ、彼に向かって声をかける。

「あっ…トムさん、おはようございます」
「んー…はよ、静雄」

いまだに寝ぼけ眼の彼に小さく笑みをこぼす。


「今日は仕事休みですからまだ寝てていいんですよ」「…だって静雄の視線がずっとこっち向いてんだもんよ」


バレてた。


「…起きてたんすか?」
「さっきな。急にお前が起き出したからどーしたんだと思ってよ、薄目開けて見てたら、今度はずっと俺の顔見てんだべ?そりゃあ寝れねぇべ」
「すっすんませんっ」
「いや、別にそりゃあ良ーいんだけどよ、」


そう言った彼はドレッドの頭をガシガシとかきながら身体をおこして俺を見る。


「お前、なんかあった?」


ドキリ
心臓が大きく脈打つ。

「な、んで…」
「だって今の静雄の顔、すっげぇ辛そうだべ?
…どした?俺が出来ることならなんでもすんぞ?」


彼は俺の目をジッと見ながら小首を傾げる。

どうして彼は分かってしまうんだろう。
辛そうな顔だなんて、していたはずなかったのに。
ちゃんと胸の奥に閉まって、隠していたはずなのに。



一番分かって欲しくて、一番分かって欲しくない貴方にだけは、いつも見破られてしまう。



夢を思い出して泣き出しそうになるのを堪えた俺は、ただ彼に「死なないでください」と、最低限の言葉を伝えることしか出来なかった。
すると彼は、一瞬キョトンとした表情になった後、なんだそりゃあ と笑う。

「何を言い出すかと思ったら。安心しろ、静雄。俺はお前を残して死んだりなんかしねーからよ。…だから」

そう言って彼は俺の髪をくしゃりと撫でて顔を近付ける。

「お前も俺残していなくなったりするんじゃねぇぞ」



或る朝の約束
(或る朝の始まりが、あんな悪夢からだなんてもう一生なくていいけど)

(彼からの口づけからなら、いいかな…なんて)



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