君が幸せになれる未来



どんなに願っても、叶わぬことを知っていた。
どんなに思っても、切り捨てられることを知っていた。
それでも信じてこの世界は夢だと何度目を閉じても、開いた先に俺の望む未来があったことは一度もなかった。
今日もいつもと変わらない朝だ。平和な、日常。


俺はその変わらぬ日常を過ごすためにと重たい瞼を開ける。そしてアラームのなる騒がしい携帯を止め、怠い身体を起こすと洗面所に行く。冷水で顔を洗う。その後には簡単な朝飯作って新聞読みながら珈琲を飲み、仕事までの短い時間を潰す。一応Tvは付けるが、それは単なるBGMに過ぎない。俺にとってその日一番重要な情報は、今日傘が必要か否か、だ。それまでは政治の批判でも芸能業界のおめでたでも勝手にやっていればいい。…とか言ってると、ふと目にした時の占いが12位だったりする。そして今日も相変わらずの嫌われ具合だなぁと一人苦笑する。



神様に嫌われるのには慣れていた、昔から俺の考えはなかなか真っ直ぐには通らない。それも最初のうちは悲愴感に暮れてたりもしたが、ここまでになるともうそれもなくただそういうものなのだと思うようになった。そして馴れとは本当に恐ろしいものだと改めて実感させられる。


そしてそんなこんなで俺はいつの間にかに珈琲を飲み終わり、食器を片付けてから歯磨きをくわえながら着替えを手にとる。いつもの赤と黒のストライプに背広を着込んで鏡の前に立つ。そして必要最低限の物を持ってちょっと早めの出勤。


いつもと変わらない池袋はまた今日も変わらず人で溢れている。俺はその中を煙草吹かしながら歩く。そして俺は人混みの中、嗚呼、今日もやはりこの世界は何も変わらないのかと考える。


…さっき言ったように俺は神様に嫌われている。
だから一般人が無理なことを俺がどんなに懇願しても赦されるわけがないことはもう知り得たものだった。諦めるしかない、儚いものだというのは分かっている。ただどうしてもそれを諦めることは出来ないのだ。俺は、この世界をどうしても変えたい。



俺は人混みを抜け、人通り少ない路地裏に入り混む。そして少し歩いてすぐのひっそりと佇む俺の仕事場の急な階段を足音大きく登ってドアノブを回す。
ギィと建て付けの悪いドアの音を出しながら事務所に入ると、黒い革のソファーに座る態度のでかい男からよっすと軽い朝の挨拶をされる。それに対してはよーございまーすと軽く返し、自分のディスクで今日の仕事内容を確認する。今日も相変わらずの大量の仕事。これを仕事にしている自分が言うのもなんだが、この取り立て相手にいい加減にしろよと今すぐ言ってやりたくなる。でも全部が全部くだらないものに使ってる人じゃねぇから、まぁ何とも言えないが。


「はよーございます」


仕事内容をコピーし、それを再び読み直していると、その言葉とともに事務所の扉の錆びれた音を聞いて振り返る。そして見慣れた金髪に俺はおぉ、はよーさんと笑顔で返す。その声の主は切れた息を吐きながら悲しそうに笑った。









これは変わらない世界。
毎日繰り返すそれは永遠のループ。そのなんの変哲もない未来は、今日も相変わらず平和だ。


けれど、俺が目を開ける度に見る現実でお前は、俺を見ていつも泣きそうな顔をして笑う。眉に皺寄せて涙を我慢しながら、声震わせて笑うんだ。
俺は、お前のその理由(わけ)を知らない。だから余計に心が痛くてならないんだ。

(でも俺は、お前の為になることを何一つだって出来やしない)

俺はただのお前の一上司で、中学の頃の2つ上の先輩。
他には?
何もない。
人間一人の力、それも何の力にもならない俺の力じゃどうすることも出来ない。
無力過ぎて笑える、俺はただこの平和過ぎる日常を過ごすことしか出来ない。


(だから、もし)


もしこの世界が普遍じゃなくなる代わりにお前の笑える未来が作れるなら、
俺はその未来ごと全部お前にやるよ。
だからどうか、不平等なこの世界よ
彼の代わりに、この俺を呪って。


君が幸せになれる未来が、僕はほしかったんだよ
(俺のことなんてどうだっていいんだよ)
(ただ君にさえ幸せを約束された未来をあげること出来たらそれで)




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