目眩く連鎖のように


彼の好きなところを挙げろ、と言われることほど長く時間のかかるものはないだろう。
前を歩く彼の後ろ姿をぼんやりと見つめながら思ったのはそんなことだった。

数年前に同じことを同じように言われたなら、多分簡単に言えた。ただ単純に指折り数えて彼のことを思い出し、にやけて、次々と挙げていく。それほどまでに俺は彼への気持ちを表出せた。表出せるほどそれは軽かった。ただ、それはけして想いの重さ軽さだと言うわけじゃなく。想い続け、ずんぐりとそれが積もって、今では直接顔見ては言えないほどそれが多くなってしまったということ。だからいざ目の前にして言おうと思っても、口から発せられるのは小さな吐息だけで結局俺は何も言えない。勿論本当は伝えたい。貴方への限りないこの気持ちを盛大に込め、貴方が好きなんだということを。

振り向いたときの横顔だとか、拗ねた時に尖る唇だとか、目を閉じるとよく分かる長い睫だとか、ドレッドの隙間から覗く形の綺麗な耳だとか。
貴方の好きなところなんて挙げれば挙げるほど沢山出てくる。
だけど出来ない。貴方の素敵なところを、俺は誰よりも知っているはずなのに、一つだって言葉に出来やしないんだ。
その代わりにむず痒さが胸に残って擽ったくてどうしようもない。何故だろう。どうしたって伝えられないんだ。
「静雄ー、」


彼の声。顔をあげればすぐ傍に彼の顔。なんですかと首を傾げれば、彼は笑う。

「この取り立て終わった昼食いに行こーぜ。今日は何がいいかねー」

空に向かって紫煙を吐き出しながら独り言のようで独り言じゃない呟きを俺に投げかける。そうして見つける。貴方の好きなところを、俺はまた一つ見つける。


「なんでもいいっすよ。トムさんの好きなとこで」
「昨日も静雄はそー言ったべー?ほら、いいから言えって」
「え。じゃー…マック、とか?」
「かーっ、お前はほんとに欲がねぇな。…しゃーねぇ、そんな控えめな静雄君にはトムさんが寿司奢ってやろうじゃないか。こんなこと滅多にねぇんだから、ありがたく思えよー?」

ぐしゃっと俺の髪を混ぜるように撫でながらトムさんはニヤリとまた笑った。あぁまた、言葉に出来ない想いが積もっていく。そして同時に貴方の好きなところをきっと世界中の誰より知ってる俺が嬉しくなって。
貴方の背中を追い掛けながら再び、貴方へのこの気持ちの伝え方を考えては思案するのだ。そうしてくるりくるりと想いは回って。
貴方はきっとまた俺を見て笑うんだ。



目眩く連鎖のように
(貴方の好きなところを見つけるたびに、貴方が好きだと実感する)
(そんな俺自身さえも好きになれたなら、きっと彼をもっと好きになれるだろう)



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