※堂々巡りの海に堕ちる


※ぬるくエロ…えろ?






俺はあんたの笑顔が嫌いだった




あんたが笑うのはいつだって嘘をつく時だから




だから俺はあんたと逢うのも一緒にいるのも身体を重ねるのも嫌だった





だって好きなのは結局俺だけだってこと、嫌でも分かっちまうから







でも結局それがすげぇ辛くて堪んなくなって





俺は、今日もあんたに歪んだ愛を確かめようとするんだ





 ―――――――――――― 





「トム」

彼の低く深い声が俺の名を呟くのが聴こえてうっすら目を開ける。
薄暗い部屋、白い天井と一緒に赤林の顔が視界に入る。
その顔からはいつもかけているサングラスが外され、いつもはあまり見えない右目の傷痕がよく見えた。
俺は縦に真っ直ぐ引かれたその傷を見つめる。
彼がたまに嬉しそうに語る、彼の初恋の人につけられたという傷。



その傷があんたを過去に縛りつけている原因なんだろうか
だからあんたはその傷を消さないのか
まだあんたはその切り裂き魔だとかいう女に囚われているのか…?


「っは」
「何考えてんだい、トム坊」
頭に浮かび上がった無数の言葉の羅列が、動き始めた律動により一瞬にして消える。
その変わりに信じられないくらい艶めかしい自分の声が脳内に響くのを感じてそれを振り切るように顔を背ける。


「あんたにはかんけ、ね……っふ………ぅあ」
「あらら…冷たいねぇ。トム坊はいつからそんなひどい子になったんだい?」
赤林はそういい、ぬるぬる腰を動かしながら俺のモノを握る。
声が出そうになるのを唇を噛み締めて堪え、ギロリと赤林を睨む。



ひどいのはあんただろ

心の内で悪態をつく。



だって俺がどんなにあんたを思っても、
あんたの心はここにないんだろ?
俺を性欲処理として使ってるだけだろ?
俺のことなんてどう思ってもないんだろ?


あんたの愛は、
全部全部偽り、そうなんだろ?


「トム」


もう一度、今度は先程よりも低く声で俺を呼ぶ。
腰も手の動きも止まらない。
だけどその声だけは止まって聴こえた。
赤林は俺に少しずつ近付いて耳たぶをかぷりと噛む。
赤林の行為に俺の身体はぶるりと震え、体内の奥がずくりと疼いた。
赤林は噛んだ場所をべろりと舐め廻すと囁くようにして言った。



「好きだよ」

赤林はそう呟いたのと同時に俺の最奥を思い切りつく。
掠れた俺の叫びは身体の熱と一緒に夜の闇に消えていった。







堂々巡りの海に堕ちる
(あの時、愛を囁いた貴方は笑っていた?)
(それとも…?)


 ―――――――――― 

Title:水葬



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