君こそ純愛


静雄が俺に同居の話を持ち出したのは一週間前。
仕事終わりに、俺は静雄に袖口を引っ張られ
「一緒に、暮らしませんか!?」
と大通りの人混みの中で告白された。
…そりゃあ周りからは視線が集まってくるし、恥ずかしいに決まってるけれども。
真っ赤な顔の恋人から言われたことをわざわざ断る馬鹿がどこにいる?
勿論俺の答えはその場でYes。
その次の日から引っ越しの準備をして、今日から同居生活始まり…なんだが


「なぁ、」
「はい、どうしたんすか?」
「これ、おかしくねぇか?」
「……?なにがっすか」
静雄は不思議そうに首を傾げる。
その顔はからかってる顔ではなく(静雄は基本真面目だ)、本当に俺が何におかしいと言ってるのか分からないようだった。
いや、でもこれはなぁ…

「嫁ってさ、静雄の方だと思うんだよ俺」
俺は自分が今前に着ているピンクの布の端を掴みながら呟く。
これは先程静雄がキラキラした目で俺に差し出したエプロンだ。
俺はその目に負けて仕方なくこれを着たのだ。

「?似合ってますよ」
「いや、エプロンがどうとか(勿論これだって静雄のが似合うだろうけど)そうじゃなくてだな」


俺は静雄が家事をする姿を見たいのだ。
俺のために手料理を作ってくれたりだとか、俺の服を静雄の綺麗な手が畳んでいくのだとかそういう姿を。
勿論全部を任せるなんてことはしない。
嫁の隣でその頑張っている姿を見つめながら手伝いをする。
なんと幸せなことだろう。
同居するとなってからずっと頭にあった想像図だ。
…だが俺の思うこの理想的な家庭図の嫁の枠に俺が入るとは思ってなかった。
いや、その前に入るはずがない。
(つーか俺がそこに入ったら気持ち悪過ぎて寒気すんべ)

俺は軽くブルッと身体を震わせてから静雄に訴えるための口を開く。
「とにかく、俺よりお前の方が」
「…いや、俺よりやっぱトムさんの方がいいっすよ」
「…は?」


こいつはまだ俺が言わんとしてることが分かっていないのだろうか。
まぁ静雄が鈍いことはよく分かってはいるが…いい加減気付け、静雄。
こんなおっさんがエプロン付けるより、ひよこみてぇにひょこひょこしてるお前の方が数百倍可愛いべ。

「だからな、静雄。俺は」
「俺、トムさんのこともっと知りたいんですよね。」
大きく開いた自分の口を思わず閉じ、先程の静雄と同じように首を傾げる。
知りたい、って…
「いつも一緒にいるだろ?」
「そうなんすけど。ほら、やっぱ人って家に帰ると外とちょっと違うじゃないですか。いい意味でも、悪い意味でも。だから俺、トムさんについて色んなこと知って、全部引っくるめて好きになりたいんですよね。そしたらきっと、一つになれるんじゃないかなぁ…って」
そう言ってはにかむ静雄はそれに…と呟いてから、意地悪そうに笑う。

「トムさんはやっぱ可愛いですしね」


…あぁ、まったくお前ってやつは
そんなこと言われたら

「あれ、トムさん顔赤いですよ?」
「うるせ」


やっぱそれでもいいかなって思っちまうだろうが
(エプロン似合わねーくせに、な)







君こそ純愛
(ったく…俺はいつになってもお前に勝てる気がしねぇよ)




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