繋がる心


※1000Hit記念文










「静雄、お前もう上がっていいぞ」

事務所の奥から彼の声が聞こえる。
現在深夜1時30分。
俺は事務所のソファに寝転んでいた体を起こし、ソファ越しに部屋の奥の方を見る。
俺の目には彼がコンピュータのキーボードを叩いている姿が映り、それは彼の仕事がまだ終わりそうにないことを語る。
俺が何も言わずにジッと彼を見ていると、答えが返ってこないことを不思議に思ったのか、彼は手を止めて顔をあげる。

「静雄ー、聞いてっか?」
「はい。聞いてますよ」
「じゃあ…」
「でも嫌っす」


俺は彼の言葉を途中で遮ってソファに座り直し、足を抱えて小さく縮こまる。
そんな俺を見て、彼は困ったようにため息をつく。


「嫌って…静雄お前な……」
「今日は、嫌なんです」




そう、今日だけは絶対に。







 ――――――――――――― 


彼は覚えていないだろうか。

一年前の今日。
俺が彼に告白したこの日のことを。


一年前のこの日、中学の時からずっと好きだった彼に勇気を振り絞って自分の思いを打ち明けた。
俺は何度この思いに一人戸惑い、躊躇し、泣いたことだろう。
嫌われたらとか気持ち悪がられたらとかそんなことばっか頭ん中を巡っていた一年前。

でも彼は、そんな俺のことを真剣に考えてくれた。
笑って頭を撫でてくれた。
そして彼は「とりあえず付き合ってみっか」と優しい声音で言ってくれた。


俺がこの時どんなに嬉しくて、どんなに彼を愛しく思ったかなんて彼は知らないだろう。
そして俺が今日という名の記念日をどんなに大切にしているかも知らないんだろう。



俺はそんな考えを頭によぎらせ、泣きそうになるのをぐっとこらえて体をより一層小さくする。





「しーずお」
「っ!?」

急に頭上から聞こえてきた声に俺はびくりと体を震わせ、顔を上げる。

「トムさん。仕事、もう終わって…?」

彼は自身のドレッドをぐしゃぐしゃと掻き混ぜ、うんざりとした表情をする。

「いや、もう明日に回すわ。ほんとは昨日中に終わらせたかったんだけどよー…」
「え、じゃあなんで…」






「だって今日、お前と俺の一年記念だべ?」



そう言った彼は、一年前の今日と同じ顔で笑っていて。
それを見た俺はこらえきれず、夜中を回ったこの時間、子供のように泣き叫んだ。




トムさん、俺は今日一年ぶりに
あなたの心を感じたんだ

繋がる心
(これからはきっと、こんな気持ちになることはないよ)




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