身の程知らずの恋をした


※流血あり
※死ネタ




俺は、貴方にずっと振り向いて欲しかった。
この気持ちに早く気づいて欲しかった。
そしてすぐにでも、貴方との幸せを感じたかった。
他には何もいらなかった。
俺の望みはただ、それだけだった。

それだけだった、のに…。


「えっ…」
俺の目の前が真っ赤に染まる。
薔薇よりも濃い赤は止まることなく地面を滑る。
その赤が滴り落ちるのは、彼の脇腹から。
そこから引き抜かれるのは、銀色のナイフ。
俺の体は、全てを認識する前に勝手に動き、気がついたら彼の前に立っている男達に殴りかかっていた。




認めたら、
俺には何も残らなくなるから





ただ目の前の男を殴って、殴って、殴り続けて、
全部なかったことにしてしまいたかった
この男を消してしまえばそうなるんじゃないかなんて、
馬鹿げてるけど今の俺の頭には普通のことなんて考えられなかった
だから殺すつもりで殴った
これが夢になるのならば、自分が人殺しになったってよかった

でも、彼は、



「しず…お、もう…その、へんに、しと、け…な?」


俺は男達の血で濡らした拳を男の顔面で止めて彼を見る。
雨が降っているわけでもないのに何故か、彼が霞んで見えた。
俺は掴んでいた男を放り投げて彼の傍にかけ寄る。
俺がアスファルトに投げ捨てた男達は、体を震わせながら夜の闇に消えていった。


彼は俺にようやく聴こえるくらいの小さな声で呟く。



「お前が、おれの、せい…で、ひとごろしにな…て、なら…なくていい…んだよ」
「ッ!!」
こんな時まで俺の心配なんてしなくていいんだ貴方はっ!



そう叫びたいのに、その声は出なかった。
口を開いたら嗚咽しか零れず、まともな息の吸い方も分からなくなった。




そうだ、病院に…新羅んトコに電話すれば…。



震える手でポケットから携帯を取り出す。
ボタン上でさまよう指に力がこもる。
パキリと手の中で携帯が変形する音がしてそれは一瞬にしてスクラップ。





俺の周りのものは全部そうなった。
大切に扱おうとしてもすぐ壊れた。
だから俺にはだれも近付かなくなった。
俺はいつまで経っても何も守れなかった。




だけど彼は違ったんだ。
彼はそんな俺でも傍にいてくれたんだ。
俺はそんな優しい貴方に恋したんだ。
なのにおれ、は






「しず、お」







名前を呼ばれたと気付いた時、小刻みに震えていた俺はやんわりと彼の手が包み込まれていた。
顔を上げて彼を見るといつもと変わらない優しい顔で笑って囁くような小さな声で言った。




(今まで、ありがとな)


いまからだって俺達は一緒に…。
そう叫びそうになる感情を抑えて唇を噛み締める。





全部なかったことになんて、もう






俺は静かに冷たくなっていく彼の身体の温度を感じながら泣き叫ぶ。
俺の頬には、
塩辛い雨が一筋落ちた。








身の程知らずの恋をした
(俺が貴方を愛さなければこんなことにはならなかった?)



 ――――――――――――― 

Title:水葬



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