君が想うその人に


※トムさん独白




昔、お前は好きな人がいると言った。
ずっと前から思い続けている、大好きな人がいると言った。
だけどそれは叶わない恋なんだと、辛い恋なんだと言った。
だから俺は自分の気持ちを押し殺して、それを応援してやりたかった。
お前が幸せなら俺もそうなれると思った。
お前の笑顔が見れるなら、この恋が叶わなくてもいいかなとさえ思った。




でも、でも静雄。





俺の知らない誰かを思って“愛してる”というその声が、俺には泣いてるように聴こえるの。
ねぇ、どうして?



静雄、なんでお前そんな恋してんの?
なんでそんな思いしてまで好きでいられんの?
そんなに辛いならやめちまえよ。
そんな奴お前に合わねぇよ。
…なぁ静雄。
俺じゃあ駄目なのか?



そう叫びたくてしょうがなかった。
そう言って抱きしめて俺にしとけよって言いたかった。
だけどきっと、
俺では駄目なのだ。
静雄が欲しいのは俺の、男の固い腕じゃない。
柔らかくて優しい香りのするあいつの好きな人の腕だ。




あぁ、何も出来ない自分をこんなにもどかしく思ったことはない。


どうしたらあいつは笑える?
どうしたらあいつは幸せになれる?
考えても考えても、答えは俺の手が届かないずっと遠い場所にしかない。



…こんなに辛いならどうかいっそ、




君が想うその人に
(なれたらいいのに、なんてそんなこと、叶うはずもないのにね)



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