綺羅星


※捏造




始めてお前を見た時、俺はお前を笑顔にさせてやりたいと思った







2階にある自分の教室から地上を見下ろすと、そこに彼はいた。
彼はそこで三年のガラの悪い奴らに囲まれていたが、噂通り彼が負けることはなかった。
殴って蹴って投げて殴って。
ただそれを繰り返すシンプルな喧嘩。
だけどそれが俺には妙に綺麗だと思えて。
一年なのにすげぇなぁ
そうやって声をかけようと、校内で有名なそいつを呼ぶ。
俺の声に彼はゆっくりとこちらを向いた。
俺は思わず出かけた言葉を飲み込んで閉口した。



それはけして恐ろしかったからではない。
人の山の真ん中で、泣きたくても泣けないような、寂しそうな顔をしていたからだ。
そして俺が生きてきた今までの人生の中で、あんな顔をした人間に初めて出会ったからだ。


「お前、そこからぜってぇ動くなよ。手当してやるから」


気付いたら声をかけた理由を忘れて教室を飛び出した。
胸にひっかかる小さな苦しさが、俺の背中を押していたから。



それは、その場限りの同情ではない
空回りした憂慮ではない
無力な俺に出来る訳のない救済ではない
脈絡のない言葉で安心させたいのではない
ただ俺は、彼の酷く綺麗な顔から悲しみを取り除いてあげたかった
ずっと一人だっただろう彼に届くには時間がかかるかもしれない
だが彼の存在に気付いておきながら知らない振りなんて器用な真似、俺にはきっと出来ないから
俺、結構お節介だし
それにこの心はどう足掻いたって、彼を一人にするのを許しちゃくれなさそうだったから





「…あんた誰だよ」

下に降りると眉間に皺を寄せて顔をしかめる彼がいた。
さっきの顔の面影がまだ微かに残っているのが見えた。
それを見た俺の決意は表に出て、気がつくと口が勝手に動いていた。


「お前を甘やかしに来た正義のヒーローだべ」

そう言って笑えばお前はポカンと口を開け、

「……変な奴」


小さな笑顔が顔を覗かせた。
ほら、やっぱ笑ってる方が綺麗だ。







俺には、お前の悲しみの理由を取り除けるほどの大きな力はない
俺はけして神様なんかにはなれないから、きっとお前に何の手助けもしてやれないことの方が多いと思うんだ
だけど1からその無力な時間を引いた分で俺はお前を幸せにするよ
だから
お前はそのままここにいてくれればいいんだ
ねぇだから


 ―――――――――――― 



「トムさん」

顔をあげると目の前に肩で息をしたバーテン服の彼。
あれからもう十年。
人によって長いとも短いとも言えるけど、これからのこと考えるとまだまだ短い。
俺は、遅れてすいませんと息を切らして謝る彼の顔を見つめた。
あぁ、やっぱり


「静雄、もうあんな顔すんなよ」
「えっ?」

俺はこの後の彼の顔を想像しながら、笑って呟く。


「お前は笑ってる顔が一番可愛いから、な?」




綺羅星
(輝くそれを見た時、まるで彼みたいだとほんとに思ったんだ)




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