暖かな陽射し


よく晴れた日曜のある日。

ベランダから聞こえる湿った布の音を聞きながら、俺はリビングの床に縮こまっていた。
お昼のこの時間はどうにも気持ちがいい。
リビングのフローリングが日差しによって暖かくなり、体にそれが染み渡っていく感覚に陥る。

このままだと寝てしまいそうだ。
…おかしいな、今日12時まで寝てたはずなのに。
そんなことを思いつつ、俺がうとうとと目をつむり眠りかけた時、ベランダから彼の声が聞こえた。



「静雄ー、そこの洗濯物取って」
「…うっす」

俺はよいしょっと反動をつけて起き上がり、近くにあったカゴごと洗濯物を持つ。
そして目を擦りながら、ベランダに揃えておいてあるサンダルに足を突っ込んだ。



「どうぞ、トムさん」
「おー、サンキュ」

トムさんは俺が持っているカゴの中から湿った服やらタオルやらを取り出して棒に引っ掛ける。
空は相変わらず洗濯物日和で青く澄んでいる。
そんな中、風に揺れる洗濯物をぼーっと眺めているとトムさんに見つめられていることに気が付き、目線を下げる。
あっなんか笑われてる。

「なに笑ってんすか」
「いや、眠かったんだと思って」

そう言って頬を指差すトムさんにつられて自分の頬に手をやると、なんだか線がくっきりついているのが分かった。
そしてさっきまで寝転がってた床を見て、あぁフローリングの と確信する。
それにしてもトムさん、笑いすぎだ。


「だって暖かいんすよ、この床」
「はいはい。じゃ静雄がひなたぼっこしてる間にトムさんは夕飯の買い出し行ってくっかな」


そう言ったトムさんは俺をベランダに置き去りにして、リビングに入っていく。
…よし、こうなったら




ぐい

「うおっ!?」
俺はサンダルをベランダに脱ぎ散らかしたまま、玄関に向かおうとするトムを後ろから抱きしめ、ばたんと後ろに倒れる。
下の階の人、煩かったらすんません。
でもトムさんのせいっすから怒るならトムさんに。


俺の腕の中でトムさんが暴れているのが分かる。
彼と触れている場所から彼の体の温かさが分かる。
腕から彼の大きくなる鼓動の音が分かる。


ほんとに彼は素直じゃない。
俺は腕に込める力を強くしてトムさんの髪に顔をうずめると彼は動きを止めてはぁとため息をつく。


「そんなことしてっと飯食わせてやんねぇぞ?」
「嫌っす」
「じゃ離せって」
「それも嫌っす」
「お前なぁ…」
「最近忙しかったじゃないっすか。久しぶりにゆっくりしましょうよ」


ほら、床暖かいっすよ

そう言って彼を自分の隣に降ろすとトムさんは床に顔をくっつけて寝転ぶ。

「あー…こりゃあ寝ちまうな」
「でしょ」
「静雄がほっぺに跡つけんのも分かんべ」
「まだそれ引きずるんすか」


そう言ってむすっと顔をしかめると、トムさんは笑って床の上で仰向けになる。
俺もトムさんの真似をして仰向けになると、また眠気が襲ってきてそれで―――




暖かな陽射し
(彼と俺を包み込む大きな温もり)
(たまには、こんな日があったって)



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