※R指定





何かが室内で騒がしく響く音がして俺は目を開けた。窓からは目を細めてしまうほどの眩しいくらいの光が入ってきて、俺は自分でも分かるほど腫れぼったくなった目を細め、ゆっくりと身体を起こした。ちゃんとベッドで寝なかったからだろう。身体中が痛い。
しかしそんな身体でも動くものは動くのだ。
俺は軋む身体を床に裸足の足をつけて支え、リビングのテーブルの上で震えるそれを手に取って開いた。
手に取ったその電子機器の画面には“Call”の文字、その下には、俺の上司であり、先輩であり、愛おしさを覚える想い人でもある彼の名前が大きく表示されていた。
思わずそれから目を逸らし、目を閉じる。

いつもの俺なら、この名を目にした瞬間直ぐさま電話を取るだろう。迷うことなどなく、出来ることなら一コールで。
そしたら彼は速ーよっていいながらも笑う。朝から凄く嬉しい気分になる。だが、今の俺にはそんなことは出来ない。否、出来るはずがない。それに、もし取ったところで普通に会話することが出来る訳がない。彼も俺も。


しばらくすると電子機器は諦めたかのように音を鳴らすのを止めて、まるで何事もなかったかのように大人しくなった。しかしその代わりに、いつもの待受画面に戻ったその端っこで着信12回の文字を小さくながらも主張していた。その小さな文字にズキリと胸が痛む。


俺は彼にしてはならないことをしてしまったというのに。
彼を傷付けてしまったというのに。
貴方は何故こんなにも優しいの。
仕事先にも連絡を入れずこんなことをしている俺を何故見捨てないの。
このまま関わりも持たずにいれば、俺だってきっと、貴方を諦められるのに。
無理だ。
このままじゃ無理だ。
多分今の状態で貴方に会ったら、きっと俺は…。


俺は携帯の電源を切ってそれをテーブルに戻し、無意味にその場に立ち尽くす。寒い、とりあえず着替えだけはしておこう。そう思って自室に足を向けた時、玄関方から音がした。
コンコンというノック音。それと同時に聞き覚えの有りすぎるアルト低音の声。


「静雄ー、帰ってるか?」
その声に寒さとは違う、身体が硬直する感覚が全身に広がる。外して手の中にあったボータイが重力に従って床へ落下した。しかし、頭の中にあるのは自制の聞かない言葉の羅列だけ。


まさかまさか、
だって俺はあんなことを彼にした。なのにまさか、
まさかそんな…そんな、こと


「静雄ー、いるなら返事しろ」
だけどこれは彼の声だ。
間違いなく、これは彼の声。
…いつもなら凄く嬉しいことだ。だってあの重々しい扉を隔てた向こうに彼がいる。それに走り駆け寄ってノブを回せば朝の眩しい光を背にした貴方がいる。
あの人が今日も俺に笑いかける。なんとまぁ素晴らしい世界だろうか。
けれど今はそんなことを俺は出来ない。きっと扉を開けたところで俺が瞼の裏でみるような笑顔を貴方はしないだろう。苦々しく、無理矢理にでも作った顔をして俺に笑いかける。俺は貴方にそんな顔をさせる資格なんてない。貴方の幸せな世界を守るって決めたんだ。だから、トムさん早く。


(早く帰って)


「ん、じゃあしゃーねぇ。静雄。いるか分かんねーけど、いるなら聞くだけ聞いとけ。いいな」


(え…)


ギュッと力を入れて瞑っていた目から力を抜き、顔を上げて玄関を見た。うんとこしょ、と彼の声がさっきより下から聞こえた。多分俺の部屋の前でトムさんはしゃがんでる。それって結構傍からみたらトムさん完璧に不審者じゃないか。俺は頭の中で思わずセルティが恐れるあの強面の警察の顔を思いだし、今すぐそれを止めようと何も考えずに玄関へと近付く。


「トムさん、そんなこと―――」
「俺は昨日静雄が調子悪いってこと知って、俺が何かしてあげれたらな、って思ったんだ」


足が動きを止める。延ばした腕がぴたりと空中で止まり、少しして力を無くしたように身体の横の定位置に落ち着いた。トムさんの声が、塞ぎたくて堪らないのに耳朶の奥に入り込む。聞きたい、でも聞きたくない。彼の言葉が続く。


「だけどさ、嫌なら言えよ。お前は俺に気をつかってんのか知らねーけどよ、無理に付き合わなくていいから。だけどもし悩んでんなら、一人で溜め込まないで少しくらい誰かに話してみろよ。俺が嫌なら弟君でも…っとセルティ、だったけか?まぁように首無ライダーのことだよ。そいつでもいいからさ、相談しろよ。な?」


俯いていた俺は顔を上げ、扉を見つめる。
扉の向こうにいる彼の顔が容易に想像出来る。
彼はきっと俺を安心させてくれる優しげな表情で笑っていることだろう。ずくりずくり、身体の奥が疼く。不本意な、でもきっと心の端にあった貴方への汚らしい、慾。


「…まぁとにかく、明日は事務所に顔出せよな。今日はとりあえず社長には風邪だって伝えてあるからよ。」
じゃまた明日な、とトムさんはドアを掌で軽く叩き、扉の前から人の気配が離れた。俺は無意識に玄関のドアノブを廻した。

「トムさん…っ!」

彼はびくりと身体を震わせてから、振り返って瞳の中に映る俺の形相に目を丸くしていた。そんな彼との距離をほんの数秒で縮め、驚いて軽く後ずさりをしている彼の腕を思い切り掴んだ。そして力任せに部屋へと引きずり込み、乱暴に床に押しつける。
その衝撃で彼の顔が微かに痛みで歪むのが分かった。でも今の俺にはそんな彼を気遣うほどの心の余裕などあるはずもない。
俺の名を紡ごうとした彼の口に自分の口を押し付ける。無防備に開いた口内に舌を入れ、行き場のなくなった彼の舌に自分のそれを絡ませる。
俺は小さな抵抗を見せる彼の手を左手だけで押さえ、開いた右手を彼のベルトにかける。

「しず、お…っ、やめ」

彼の静止の声を再び自分の唇を押し付けて止める。かちゃりかちゃりと自分でも驚くほど器用に彼のベルトを外す。そしてズボンとスラックスを膝下まで一気に降ろす。ぶるりと彼の身体が震えた。俺は彼の唇から一旦自分の口を離し、右の人差し指を露わとなった彼の中へと当てて、ゆっくり飲み込ませた。彼の顔はその瞬間、不快の意を表すように眉間に皺が寄り、唇からは何度も俺の名が紡がれる。しかしそれには答えず、代わりに先程まで彼の腕を拘束していた左手でストライプ柄のシャツのボタンを丁寧に外していった。そしてそれを半分くらいまで外して上半身の殆どが外気に露わとなった状態にすると、彼の胸板に近付いて薄い肌の上で小さくぷくりと浮き上がった飾りに舌を這わせた。彼の声に微かな色気が混じる。

「ちょっ…静、雄…お前いい加減に」
「すいません。…だけどもう無理なんです」


そう彼の耳元で囁いて少し解れてきた彼の中に右手の指で奥へと進む。ずぷりずぷりと指の付け根まで彼の奥へと沈む。指を廻して、目当てのそれを探す。


「なに…いっ、て…あっ、あぁっ!」


爪先が奥の痼りを掠る。それと同時に彼の悲鳴に似た快楽の叫びが鼓膜を揺らした。


「あ、ここか。前立腺」
「あ…しず、お、そこ…は、あ…あッん、あァ、は…ふぁ」


快楽に溺れる彼の顔に欲情する。まるで獣のようだ。自覚はあっても、止められないが。俺は段々と指の本数を増やし、最終的には三本の指を抜き出しして、彼の奥を刺激した。ぐちゅりぐちゅりと穴の中で卑猥な音が漏れ出した。彼の顔にはさっきまでの不快はなく、寧ろ快楽に溺れてさえしている。その表情に疼くものがあった俺は、指を動かすペースを速めて彼の絶頂を目指す。するとそれはすぐに彼へ訪れる。


「あ、も…出る…ッ!!」


彼の掠れた叫びと同時に彼自身からどぴゅりと精が吐き出された。トムさんののけ反ったそれは、彼のシャツと腹を汚し、力を無くしたように元へと戻った。彼の荒い息遣いが頭上で小さくなり、少し経ってから色気の抜け切らない彼の声が俺に降りかかる。



「はぁ、は…も、気は済んだか…?なら、早くそれ抜いて」
「…すいません、トムさん…すいません」
「え…?」


もう無理なんだ、この欲情した思いは止められない。

俺はズボンのチャックを下ろし、その隙間から自身を取り出して彼を見た。次の瞬間サッと彼の顔が青ざめ、手を床について役に立たない足を引きずりながら俺から離れようと後ずさる。しかし、止めるつもりなど毛頭ない。
俺は逃げる彼の細い腰を掴んで自分に引き寄せ、俺の指を三本飲み込んで緩んだ穴に自身を当てがう。自身を奥へと進ませる度に卑陋な水音が音を立てる。ぎちりと音をたてながらもなんとか自身の根元まで彼の中に入れると、彼の腰を掴んで抜き出しを繰り返した。ぱんぱんと肉がぶつかり合う音が定期的に発せられると共に、彼の口からはとめどなく声が吐き出される。


「あ、んぁ、ふ…あ、あァ!!」


彼の目元に涙が滲む。俺はそれを見ない振りをして彼から目を逸らし、右手で彼自身を掴むと、最後の追い討ちをかけるように指を動かしてそれを抜く。彼の声が鼓膜を揺らす。


「しず…お、ッ」
「……ッ!!」


俺は思い切り最奥をついた。彼は空いたままの口から掠れた快楽の声を吐き出しながら絶頂へ達し、俺もそれを追うように達した。
最後に俺の心に残ったのは、心満たされる思いでも嬉嬉な思いでもなく。ただ、空虚な思いであった。




「は、はぁ…は」
室内に精特有の匂いが立ち込める。俺はずぶりと彼の中から自身を抜き、床で彼のと混ざった、彼の中からとめどなく溢れ出る白濁色のそれを指で拭った。粘りけのあるそれは指先から掌へと絡み付きながら下へと落ちていく。

あぁ、もし俺が女なら。
貴方は俺を好きになってくれただろうか。
貴方は俺を愛してくれただろうか。
そう思ったらなんだか虚しくなって、指先に付いたそれに涙を落とし、気を失った彼の胸板に顔を埋めた。俺の瞳に最後に映ったのは、俺が昨日彼の鎖骨につけた朱い華で。瞼に焼き付いたそれを思ったら、なんだか余計に涙が溢れた。


堪えられない
(限りなく大きな愛しさは、貴方の哀しみの前では意味を成さない)



 
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