ひたすらに透明な貴方を恨んだ


彼は世界に捨てられた


そう言ったら少し大袈裟に聞こえるかもしれないが、人間から鯨になったと言えば意味は分かるだろう。



世界から落ちた彼は俺達を使ってこの水族館を大きくした。
客も知名度も、
彼が殺した仲間の命と一緒に増えていった。
今更どのくらい死んでいったかなんて数えていない。

使えなくなったら殺す。
彼はいつもそうやって俺達を捨てていった。
だから俺は、早く彼を人間にしてあげたかった。

そうしたら、人間の頃にあった優しさを取り戻してくれるんじゃないかと、自分よりも大切な何かを見つけられるんじゃないかと、そう思ったから
だが彼は人間にならずとも希望を見つけた。



寝ている彼の口から紡がれたあの兎の園長の名前。


その時の彼の表情といったら、


俺がどんなに死ぬ気で働いたって彼が見せることのなかった、微笑ましい顔だった。



貴方が元に戻るならなんでもいいと思った。
貴方が喜ぶなら自分はどうなったっていいと思った。
貴方が化物から優しい凡人になってくれるならどんな手段でもいいと思った。
でも、何故



何故そこで水族館の者でもない、急に現れた兎が?



貴方はあの兎がいればそれでいいのか



俺達は貴方にとって必要ない?


俺達は貴方のなんなんだ?


分からないことばかりが頭を空回って、俺をいらつかせる。 そんな俺の感情を知ってか知らずか、彼はいつものように俺へ偽った笑顔を向けてきて。



ぎしりと、


胸の奥で重く錆び付いた音が聴こえた気がした。



ひたすらに透明な貴方を恨んだ
(貴方は何思ってそんな風に笑うの)


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Title:水葬



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