来世で幸せになれたら


※転生パロ





初めてお前が泣くのを見た時、その横顔に見覚えがあるような気がしたんだ。




それはある寒い冬のことで、俺は寒さに手を擦り合わせて家路を急いでいた。早く帰ったところで一人ぐらしの我が家に人の温かさはないが、身体を暖めるための暖房機具ならある。寒がりの自分にはそれがせめてもの救いで、肩からずれ落ちてきたスポーツバックをかけ直して大股で道を横切る。白い水玉デザインの赤いマフラーに鼻先まで隠し、かじかむ手をポケットに突っ込み歩けばなんとか凍えずに済みそうだった。きっとまだこんな厚着には少し早い季節なんだろうが、自分にはこれがベストな着込みだと信じて疑わなかった。コートはさすがに少し急いているようでまだ箪笥の中だが、あと2、3度下がれば考えようとマフラーの隙間から白い息を吐き出して思案しながらふと下げていた視線を町並みに流した。
真冬に近付くに連れて暗くなる空の下で色んな人が行き交う。自分のように身を震わせて家路を急ぐ者、寒さなどものともせず薄着で屯っている者、白い息を吐いて薄い酸素を激しいスピードで肺に送り込みながら走り去ってゆく者にスーツを来て普段と変わらない様でどこかそれぞれの目的地に歩いてゆく者。
それは皆人それぞれで、その様子に思わず頬を緩めてふと左から右へと視線をさ迷わせた。




その一瞬で目を奪われたのだ。急ぎで家に向かっていた足を止め、一度離した視線再び右へと送った。




そこには一人の男がいた。自分より少し年上であろう黒髪のそいつは公園のベンチに一人腰掛け、膝に腕を乗せて頭を垂らしていた。
…ただもし彼がただ座っていただけなら、こんな寒い中自分は立ち止まったりなどしなかっただろう。俺が見たのは彼の涙だった。泣き声も漏らさず落ちる涙も拭かず、ただ下を向いて静かに泣いていた。その涙を俺は、知っている気がした。いや会ったことはないはずだ。この道は普段はあまり通らないし、だいたい他人の泣いてるとこなんてそんなまじまじと見ることなど普通めったにあることではないだろう。それでも見覚えがある気がして、俺の足はいつのまにかその男の方に向いていた。足元でざらざらとなる砂を足で蹴りながら歩を進めれば男はびくりと小さく肩を揺らした。ただ、それでも顔はあげなかった。黒髪の隙間から長い睫が辛うじて見えるくらいだ。


「…冷やかしなら帰れ」

男の目の前に立てば小さく震えた声が聞こえた。聞こえないと思っていた嗚咽に近くへ来てやっと気付いた。それでもやはりそれは小さく、男の唇からは苦しそうな息が漏れていた。俺は無言のまま彼に手を伸ばしてその背中に触れた。そしてゆっくりとしゃがみ込み、あやすように優しく撫でる。長く伸びた前髪から黒く生気のない瞳がこちらをじっと見つめ、不安げに揺れた。
それにもやはり何故か見覚えがあって、思わず衝動的にその身体に手を回した。抱きしめた身体は細く、今にも折れてしまいそうで俺はそれを包むように優しく抱いた。そして腕の中で戸惑う彼をなだめるような声音を唇から白い息と一緒に吐き出した。


「泣け。お前はもっと思い切り泣けばええんじゃ」


会ったこともちゃんと話したこともない。でもそういえばいい気がした。そうすれば自分の思ってることを全部分かってくれる気がしたから。

俺はそれに合わせて目の前の背中をぽんと叩いてやった。男は何も言わず背中を揺らしただけでやはり泣き声は発さなかったが、それでも自分の背中に回った腕がシャツを縋るように弱々しく掴んだ。それに心が暖かくなって俺は男の肩口に顔を埋めるようにして抱き着いた。
回されたその手は、酷く冷たく細かったけれど、その掌の感触は酷く懐かしく、そして愛おしかった。



来世で幸せになれたら
(君と再び巡り会えたそれは奇跡と呼ぶにはちょうど良いね)


――――――
金澤さん
リクエストありがとうございました!
【伊椎で、館長乙女、園長男前設定】とのことでしたが…これ伊椎表記なのか?館長乙女もこんな生温い感じでよいのか分かりませんが…とりあえず金澤さんに捧げます!返品いつでも受け付けておりますのでご不満な点ありましたらご連絡くださいませ!っていうか金澤さんこんなサイトをストーカーしてくださってるとか…嬉し過ぎてなとまち何回も振り返っちゃうんですけどwよろしければこれからもご贔屓によろしくお願いします(*´∨`*)

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