少女漫画的展開を要求します


サカマタは目の前の事態に冷汗をかきながら一つ思案する。
これは一体どういう状況なのだろう、と。






事の発端はほんの数分前に遡る。

俺は今月末までの水族館の計画、運営、企画を館長に提示するためにこの館長室に来た。
そうだ、それ以外にここに用なんてなかった。俺が貴重な時間をかけてまとめたその書類にさえ目を通してもらって一つ頷いてもらえればそれで俺の書類事務の仕事は終わりだ。それからは持ち場で仕事の監督に付いて今日一日を終える。そうだ、その予定だったんだ。
だというのに、入った瞬間にこれだ。…冒頭に戻りもう一度問おう。扉を開けた瞬間に伊佐奈が倒れてきたこの状況は一体何なんだ。熱はなさそうだし、ただ寝ているだけのようなのだが…いや、俺には分からないだけでやはり体調が優れないのか。…って全く俺はなんて過保護なことを。一体自分は何をやっているのやら。


「ん…シャ、チ」


俺の身体の上で館長がもぞもぞと身体を動かしながら口から掠れた声音で俺を呼ぶ(倒れてきたその時から目を閉じていたのだから相手が俺だとは知らないはずだが)
今だに状況が飲み込めない俺はまぁとりあえず大丈夫ですかと目の前の彼に声をかけてみる。


…しかし、さっきのはどうやらただの寝言だったらしい。答の代わりに静かな鼻息が聞こえてくる。…理由はどうあれ、こんなにも気持ち良さそう寝ている彼を起こす気にもならず(袖口を掴まれているのだから尚更だ)、俺はとりあえず身体の上の細身を抱き上げて近くのソファへとゆっくりと横たえた。そしてまずは手に持っていた自分の仕事を彼のディスクへ置き、彼の仕事の進み具合を拝見して再びソファへと近付く。
そういえばこの数週間、珍しく多忙であったような気がする。それと同じぐらい自分達も忙しかったが、やはり魔力というものは自分が思っているより体力を消耗するのかもしれない。…まぁ訳はあとで聞くことにして、今はとりあえずゆっくり休んで頂くことにしよう。

俺はソファの傍にしゃがみ込み、うっすら汗ばんだ額から前髪をどかすように梳いてから仕事のためにと立ち上がった。


「ん…」


苦しそうな声に思わず身体を震わせてしまう。まさか起こしたか?
一瞬そう思って伊佐奈の顔を覗き込めばどうやらそれは違うらしく、今だに寝息は健在であった。しかし寝苦しいのか、首元を掻きむしるように掌が喉の辺りを摩っていた。目線をずらせば、どうやらいつも上まで締めているネクタイが苦しいらしかった。俺は少し思案した後、恐る恐るといったように伊佐奈のネクタイへと手をかけた。スルっと取れた長い布切れをソファの背もたれにかけ、再び目線を戻す。


(とりあえず、喉元くらいは開けておくべきか…?)


きっとこれだけでは息苦しさは取れないだろう。そう思い、俺は両の手の指を彼のシャツの第一ボタンへと引っ掻けた、
その時。



「お忙しいとこ失礼します。館長、この間の照明についての案なんですが、」

ガチャリと扉の開く音がして思わず目線を向ければ、ドアノブに手をかけたまま一時停止したドーラクの姿。
その目に映るであろう自分の姿に俺は慌てて彼から手を離した。



「違うんだドーラク。これはだな…その、」
「ギシシッ、こりゃあ飛んだところに失礼しちまったようだ。まさかお楽しみ中とは…ギシギシ!」
「だから違うと言って、」
「…サカマタ?」


え?
下から聞こえた甘い声音に声にならない声が出て目を見張る。
ちょっと待て、なんでこいつは肩を出しているんだ?
今度は俺の思考が停止する番だった。しかし伊佐奈がシャツを脱ぎだそうとしたその行為に我に返って脱げかかった布を慌てて掴んだ。

「ちょっ、館長」
「何急に恥ずかしがってんだよ、さっきまであんな積極的だったくせに」

伊佐奈の腕が首に回り耳元で囁かれるようにして身体を引き寄せられる。館長の言葉一つ一つの意味が今だに分からない。俺が声も出ずにその状況下にいる自分に戸惑っている間にドーラクはというと、じゃあまぁどーぞごゆっくり。ギシシとかなんとかいつもの笑い声を残していなくなってしまっていた。
ちょっと待てという声は、伊佐奈の笑い声に消えてなくなる。それに目線を当てれば、声の主は肩を震わせて苦しそうに笑っていて、やっと自分のいるその位置に気が付いた。怒気の篭った目で睨みを効かせながら、俺はソファの上の上司に向かって低い声を投げる。


「館長…」
「ほんと、お前弄りがいあるよな…くく」


伊佐奈は脱げかけのシャツを直そうともせずソファに再び寝転がり、腹を抱えて静かに声を震わせる。それに呆れて物も言えず、とりあえずこちらに顔を向かせようともう一度と彼の名前を呼ぼうと口を開いた。い、と出した声が、扉から聞こえてきた派手な音に掻き消される。館長と俺は揃って顔をそちらへと向けた。向けた瞬間、ぐいっと水槽の中の顔が俺に近付き、俺が何か言い出す前にその唇が音を発した。


「ねぇねぇねぇねぇ!あんたが館長襲ったってほんとう!?ねぇどうなのサカマタ!!」
「おお前はそそれで館長こころされれちまえばばいいんんだ」
「サカマタ殿!いくら館長殿を愛しているからといって勤務中に私事を持ち込むのは許諾出来ぬ行為であるぞ!」
「サカマタどん!今の話は本当なんか!?」
「ちょっ…サカマタてめぇ死ぬ気ならその座寄越せ!」
「クジラマンにフカヒレマン!!面白そうなことやっとるならわしも混ぜろー!」

プッ…くくく。
固まっている自分の後ろで吐き出された笑い声。俺は降り懸かる質問と叱責の雨に肩を震わせ、ただ一つ怒りを心に宿すのだった。


(あンのカニ…ッ!!あとで覚えていろよ!!)



少女漫画的展開を要求します
(そんな展開のを買える程度の端金で俺とシャチの戯れが見れる訳ねぇだろ)

(こっから先はそれなりの金を用意し(そんなことこっちからお断りです)


――――――
ヨルノケモさん
リクエストありがとうございました!!
【水族館+椎名でサカマタで戯れている館長を目撃したドーラクから始まる噂ネタ】というようなことでしたが…なとまちにはこれほどのものしか書けませんでした!!ごめんなさいぃっ!!しかもこれ伊逆+水族館(椎名)のCPですよね、ってかそれ以前にリクの内容に沿えてない!?…うわぅ、いつでも書き直しさせて頂くのでその時は遠慮なくおっしゃってくださいませ!!遅くなった上にこのクオリティーですみません!ヨルノケモさんへ捧げます!

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