戯けた道化は笑う


彼は泣くのが酷く下手な人だった。

それはただ単に彼がピエロであるからだという訳ではなく、彼が自身がきっとそういう人間であるということ。


だから例えば、
彼が自身にしか気が付かないようなちっぽけなミスをした時だとか
今日一日の公演の人の入りがあまりよくなかった時だとか
そしてそれを全部自分のせいだと一人で溜め込んでしまう時だとか


そういうことがある度、彼は顔を酷く歪めて今にも泣き出しそうにする。そうして堪えるように歯を唇に立てて涙の膜を瞳に張るのだ。


だけど彼はそのくせ、その一粒が落ちる手前でそれを消して一瞬の内にまるでそれが偽りであったかのように、何事もなかったかのような笑顔を俺に向けるのだ。偽り堅い、苦しそうな顔を。


だからその度に俺の感じるこの喪失感はどうしようもないくらいに深く、重い。
だって俺はまた今日も貴方を守れなかった。貴方に無理矢理な笑顔を作らせてしまった。そう思ったら、貴方にそんな顔をさせてしまう自分の無力さに情けなくて毎日のように俺は泣きたくなるんだ。

だけどだからって俺がそんなことをしたところで貴方の何かを変えることが出来る訳でもなく、俺も弱気なままの自分でしかいられない。
人間そう簡単には変わらない。
もし変われたなら、この地球上に住む俺達がこんなにも不完全であるはずがない。変われないから人間は悩んで、泣いて、悔やむのだ。

だけどきっと、こんな不完全で色んなところが欠けている俺でも貴方に泣く場所を貸すことは出来る。頼りないとは思うけど、優しく迎え入れることは出来る。いや、だからって貴方に泣いて欲しいって訳じゃないけど…。

そんな感じに見事吃っていたら何故だか盛大に笑われた。なんだかそれはそれで複雑だけど俺がそれで少しでも貴方を元気に出来たなら、またそれはそれで温かい気持ちになるんだ。

だから俺は泣いた貴方じゃなくて、そんな貴方の新鮮な笑顔を大切にしたい。


戯けた道化は笑う
(この笑顔は)
(どうか、造られたものではないように)



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