※愛は泣いていた
※R指定
俺達のこの関係は
取るにも足らない本当にくだらないものだ
ぐちゅりぐちゅりと卑猥な水音をわざと奴に聞こえるように俺は目の前の裸体の中を引っ掻き回す。中に入れた触手を動かす度にサカマタ自身からちろちろと精が溢れ出し、白いシーツに白濁色のそれはじわりじわりと染み込んでゆく。
その脚を伝って落ちる先走りをべろりと舌で舐めあげてやれば、組み敷いている相手の身体はびくりと震え、開いた口からは抑えきれない欲が声に交ぜて吐き出される。
「ぅあ、く…ふ、んん」
「はは、は。サカマタタ、気持ちいいんだだ…?」
「ッ、うるさ、ッひァ」
煩い悪態をつく前に最奥を軽く引っ掛けば目の前の身体は弓形に曲がって掠れた声をあげる。
まるで女のそれのようだ。もしかしたら声だけ聞けば興奮するかも知れない。
…まぁ今この状況に帰ってみればすぐに幻滅するのは目に見えてるけど。
俺は相手が女でも自分の恋人でもないことに一人苛立ち、それを消すためにと触手を一気に三本に増やして奥のしこりばかりを攻める。そして、途切れない高い喘ぎを耳にしながら俺はゆっくり目を閉じる。
愛ではない。
それはけして“愛している”のではない。
だってこいつには館長がいて、俺にだって一角がいて
それぞれ愛し合っていて
その関係は紛れも無い恋仲で
確かに幸福はその二人の間に存在している
だけど
それでもなんだかたまに物足りなくて
無性に寂しくなる時があって
一番愛してる人になんて求められないほど穢れた感情が溢れて
辛くて哀しくて最後にはそんな自分に嫌気がさして
その感情もろとも全てを消すために、不定期ながらもこうやって愛を求めて深い闇に沈んでいく時があるのだ
何故こいつが相手なのかは分からないけれど
「は、ぅあ…く…デビル、フィッシュ…」
俺の下で喘ぐ滑らかな肌を持つ海獣が俺の名を呼ぶ。なんだと耳を傾けてやれば、サカマタは目を潤ませながら早く入れろと、せがむどころか何故か偉そうに命令してきた。その上からの物言いにむらっとするどころかどちらかと言えばいらっとして、俺は目の前の男のお望み通り自身を取り出して思い切りサカマタをついてやった。その行為の快楽にひぅという小さな悲鳴を上げたサカマタを俺は嘲笑い、それに追い撃ちをかけるようにして触手でサカマタ自身を上下に抜いた。そうやって触ってやれば狂ったように叫び声を上げる鯱。
…きっと館長ならこの瞬間に顔を綻ばせ、ある衝動が身体を駆け巡るところなのだろう。
だが別に俺はこのサカマタの羞恥な光景を見たところでこいつに興奮を覚える訳じゃない。寧ろ嫌気がさすくらいだ。
だって俺はこいつが好きな訳じゃなく逆に大嫌いで。
何かあるたびにお前なんか館長に食べられてしまえばいいのになんて思ってるのに。
それにきっとサカマタだって俺がお前のことをそうやって思ってることを知っているはずだし。
サカマタ自身も別に俺のことなどただの被食者にしか見えていないはずだ
けれど
それなのに、それなのに
「デビルフィッ、シュ」
「んぁ…?」
(好きだ)
「お前が好き、だ」
お前は思ってもないようなことを口にする
ただただ、
愛が、欲しいばかりに
誰かから、
愛されたいばかりに
「は、はは…ははははッ!!」
(あぁ、まったく汚れてる)
お前も
そしてそんなお前を何だかんだで受け入れてる俺も
…だから
「お俺も好きだよよ、サカママタ」
もう少しだけ、お前に付き合っといてやるよ
哀れな憐れな、
海の支配者に同情の念を込めて
愛は泣いていた(お前も大変だな)
(真実か偽言かも分からないこんなことに使われてさ)
(そりゃあ泣きたくもなるよ)
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Title:Aコース
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