瞼の向こうで逢いましょう


汗ばむシャツが気持ち悪い。
そう思ったらいても立ってもいられなかった。ぼんやりとしていた意識を浮上させ、無理やりに覚醒させる。暗がりの部屋にしばらくして順応した目を動かし、身体に巻きつけられた俺よりも筋肉のついた腕から逃れると、床にゆっくりと足をつけた。
ぺたりぺたりと、足裏の張り付くような温さがうっとおしくてたまなかった。

一体今日はそんなに暑ぐるしい夜になるなどと言っていただろうか。
まぁ確かに夜に暑さは残るだろう程度には言っていたのかもしれなかった。だが、それにしても暑い。自分の汗の匂いに眉をひそめながらクローゼットから替えを取り出す。
黒色をしたそれを広げながらベットの上に置き、湿ったシャツを脱いでそこらへんに放おる。多分朝になったら誰かさんが不平を言いながらいつもみたく片付けてくれるだろう。
そんな情景が当たり前のように頭に浮かんでくるそんな日常に思わず上がりそうになった口角をぎりぎりのところで戻し、俺は気を取り直して無造作に投げ置いた替えのシャツへと手を伸ばした、ところで動きが止まった。
否、止められたと言ったほうが正しい。

「…道さん」

いきなり後ろから抱きしめられたかと思うと不意に鈴木の低い声が聞こえてきて、思わずギョッとする。起きているんだか寝ぼけてるんだか分からないようなそんな掠れた声が耳朶を焼く。それと同時に素肌に直で鈴木を感じて不自然なほどに身体が硬直した。なんだこれ、へんな感じだ。

「鈴、木…ちょっ、どけ」
「…どうしてです?」
「着替えるからに決まってんだろ」

そのぐらい分かれ馬鹿と言ってやるつもりだったが言葉には出てこなかった。
変に緊張している自分は一体なんだろう。何度か身体だって合わせた仲なのに、今更なんだっていうんだ。
ただ、服ごしから聞こえてくる重なった心臓が妙にリアルなことは否めないからそれのせいかもしれない。
どくどくと徐々に早まるそれに出来れば気づかないで欲しいのだが、多分ばれているだろう。鈴木はくすりと至極優しげな様子で笑い、俺の言葉などまるで聞こえなかったかのように俺を抱かえたままごろりとベットを転がった。あっと声が出る前に手からはその衝撃で替えのシャツが離れ、その後少ししてそれらしいものが床に落ちる音がした。

なんてことしてくれやがるんだ。
そう言ってやろうと強くもない腕の中で身体を反転させて、鈴木の方へと顔を向けると思ったよりも近いその距離に思わず身じろぎ、その一瞬の間でキスをされる。惚ける暇もなく、鈴木はもう一度俺の額へと唇を寄せてきた。暑い。身体からぶわりと一気に熱が発散されるような感覚がする。目が合う。鈴木の透明な色をした瞳の中に間抜けな顔をした俺が映って見えた。

「いいじゃないですか。暑いなら、このままで」

ね?と首を傾げ、ふにゃりと笑うその顔に、いつも決まって絆されてしまうのだから困ったもので。
俺はできるだけ仕方ないといった様子を出しながら、向かい合わせになったその身体に腕を回した。

瞼の向こうで逢いましょう
(まどろむ意識の中で、お前を夢の中まで欲する自分に笑った)





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