※現代



濁った白の砂浜に決して綺麗とは言いがたい青い波。燦燦と降り注ぐ真夏の太陽の下で、男女が肌を晒しあって楽しんでいる。絶え間なく聞こえてくる甲高い雑音からは魅力を微塵も感じ取ることが出来なかった。


「せっかく海に来たのに、遊ばなくていいの?」
「うん。私、暫く此処で涼んでるから、先に行ってていいよ」
「そう?じゃああっちの方に居るから、何かあったらすぐ連絡してね」
「うん、ありがと」


日焼け止めを満遍なく塗った友人は、にっこりと笑って先に行った他の友人達の元へ走っていった。残された私は、パラソルの下で荷物を枕に寝っ転がった。シートは敷いているはずなのに、目を瞑ると背中からじんわりと暑さがこみ上げてくる。グラグラと頭の中が煮えてしまいそうだ。





何時間こうしていただろう。ずっと目を瞑っているが、一向に寝れそうにない。汗で額にはりついた髪の毛がうざったらしかった。


「…暑い」
「そりゃ夏だからなァ」
「え、わっ」


ひんやりとしたものがいきなり頬に触れた。それと同時に上から聞こえてきた言葉に驚いて飛び起きる。いつの間に。私の驚いた顔が可笑しかったのか、原因である当の本人は白い歯を除かせて笑っていた。


「心臓に悪いなあ、もう」
「そりゃァ良かった。ほらよ、水」


ドカッと私の横に胡坐をかいた元親にミネラルウォーターを渡される。有りがたく受け取って首に当てると、ひんやりとした感覚が心地よかった。私の体温で水がお湯になったりしないだろうか、と馬鹿げたことを考えた。


「それ、一応飲み物だぜ?」
「馬鹿にしてんのか」
「してねーよ。お前、首冷やしてて飲もうとしねえから」
「そういう元親も額に当ててるよね」
「まーなァ」


ゲラゲラと笑う元親の髪は日光を吸収したかのように綺麗な銀色だった。元親は海が似合う。豪快で明るくて自然とみんなが集まってくる。似合うと言うより、少し似ているのかもしれない。不意に横を向いた元親と目が合った。この人は眩しい。何故だか少し動揺した私は、反射的に目を逸らしてしまった。


「あの、そういえばさ、皆とはぐれたの?」
「違ぇよ。忘れ物取りにきただけだ」
「あ、…そか、成る程ね」


なんだ、忘れ物か。元親の素直な言葉はてっきり心配してきてくれたのかと思っていた私に大きなダメージを与えた。思い上がりもいいところだ。恥ずかしさを紛らわせるために、ミネラルウォーターを豪快に飲む。冷たい水が食道を通って胃に落ちていったようで、心地良い。ごくりと喉が鳴った。


「さてと、そろそろ行くかァ」


アイツ等待たせると後がウゼェ、と苦笑いしながら立ち上がった。元親の立った場所が調度太陽と被っていて、逆光でよく顔が見えない。やっと目が慣れてきたと思ったら、頭の上に置いていた私の右手を掴まれた。


「ほら、行くぞ」
「は、」
「婆さんみてぇに日陰なんか居ても面白くねーだろ」
「ばっ婆さんじゃないし…!それに私泳げないし焼けたくな」
「いいから、強制だ強制」
「おまえ…!」


何て強引な。繋がれた手に引っ張られ、反論する暇も無くパラソルが遠ざかっていった。その代わりというように、先程まで客観的に見物していた雑音と夏の海が私達の周りを取り囲んでいた。夏に、海に、のまれる。



「っていうかお前の手、熱い」
「…そりゃ、夏だからね。そういう元親も熱い」
「そりゃ、夏だからだ」





The summer vacation of the bare foot

(裸足の夏休み)






100727 企画提出

忘れ物は君