「僕は、生きてる」 顔色の悪い新撰組の沖田総司は唐突に言い放った。 「だけど、死んでる」 一体どういう意味なのだろうか。生きてるけど死んでる。体が?いや、心が?答えはきっと両方だろう。 「死にたいの?」 「死にたくなるほど、落ちぶれてなんかいないよ」 「死んでいるのに?」 「うん」 死にたくないけど、現実は厳しいからさ。瞳に哀しみの色を見せて微笑んだ彼は、美しかった。男の人に美しいなんて変かもしれない。だけど、今、この人の纏う空気や仕草は美しいと思った。それこそ死んだような美しさだ。 「出来ることなら、今すぐにでも皆と合流したいんだけどなあ」 「すればいいじゃない」 「君を置いてはいけないよ。分かってるんでしょ?」 「…」 「君は僕にとって立派なお荷物だ」 酷い言い様だ。私が何も言わないのをいいことに、ズバズバと酷い言葉が彼の口から放たれる。私も言い返そうか迷ったけれど、黙っていることにした。口喧嘩で彼に勝てるとは到底思えない。剣術でも勝てるわけがない。結局、私が彼に敵うはずもないのだ。 「皆は僕のこと、忘れちゃうのかな」 「…」 「らしくないけどさ、不安なんだよね」 「貴方が忘れなければいい」 「僕が?」 「貴方が忘れなければ、確実にそこに存在したことが残るでしょう」 「…君の言葉は抽象的だ」 貴方にだけは言われたくない。いつも唐突に意味のわからないことを言い出すのは彼の方だ。主語もなければ述語もないことだってある。そんな日本語を日本語と呼んでもいいのだろうか、と時々疑問が湧いてくる。 「じゃあ、僕が死んだら君は忘れちゃうの?」 「そんなのわからない」 「だよね。言うと思ったよ」 だったら聞くな。無意識に眉間に皺をつくっていた。彼はそんな私を見て面白そうに口に弧を描く。忘れるとか、忘れないとか、どうでもいい。忘れられないように存在することが一番賢い方法だ。彼はそれを分かっていない。分かろうとしない。自分は死ぬということを前提に、いつも話を持ちかけてくる。それを聞かされる私を一体なんだと思っているのだろう。顔には表さないけれど、私だってそんな話は聞きたくない。要するに、彼に死んで欲しくないということだ。 「僕はきっと君のこと忘れないかな」 「どうして?」 「君が好きだから」 「…私は忘れる」 「…どうして?」 「好きだから」 私がそう言った途端、彼は何も言わなくなってしまった。彼が今、何を考えてどんな表情をしているのかはわからない。だけどきっと、さっきの表情と何ら変わりはないと思う。口元に緩い弧を浮べて、瞳には哀しみが映っているのだろう。 「私は、生きてほしい」 そう言って俯いてみたけれど、彼からの返事が聞こえてくることはなかった。 人を、初めて死なせた日 100622 |